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ジストニアの脳神経外科的治療を勧める場合【内服・ボツリヌス治療で効果が低い例に外科治療を勧める】

No.4790 (2016年02月13日発行) P.56

坂本 崇 (国立精神・神経医療研究センター病院神経内科 医長)

登録日: 2016-02-13

最終更新日: 2021-01-05

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【Q】

書痙,斜頸,遅発性など多くのタイプのジストニアがありますが,どのような場合に脳神経外科的治療を患者に勧められますか。またジストニアの手術治療に関して,その効果と安全性,問題点などについて,国立精神・神経医療研究センター病院・坂本 崇先生のご教示をお願いします。
【質問者】
平 孝臣:東京女子医科大学脳神経外科教授

【A】

神経内科医は,ジストニアの治療手段として,内服治療とボツリヌス治療を持っています。これで治療が難しい場合に外科治療を勧めるということになります。ジストニアの内服治療は,ごく一部の軽症例を除けば,単体では症状改善を維持するには至りません。あくまでもボツリヌス治療や外科治療の併用として用いられるものが多いです。
したがって,ボツリヌス治療が第一選択として考慮されるジストニアは多く,事実,欧米の診断指針などでも局所性ジストニアの大半に対して,まず行うべき治療とされています。このボツリヌス治療の効果を認めにくい例,期待しにくい例について外科治療を勧める,というのが回答になります。
現在,わが国で使用できるボツリヌス毒素製剤はA型のボトックスRで350単位,B型のナーブロックRで1万単位になっています(適応などの詳細は別途ご参照下さい)。この量を最大限使用しても有効性が得られない(得られないであろう)例としては,罹患筋が広範囲に及ぶ全身性ジストニア・多巣性ジストニアがあります。このような場合には,脳深部刺激術(deep brain stimulation:DBS)を考慮すべきと考えます。もちろん,DBSですべてが解決しない場合もあると思いますが,そのような場合でもジストニアの症状を軽減させておいて,残存した症状にボツリヌス治療を行うという方法が有効であると実感しています。
ボツリヌス毒素製剤の効果が発揮されると,確実に被投与筋の筋力低下をきたします。したがって,過度の筋力低下が起こってしまっては困る例があることも慎重に対応すべき点のひとつです。
近年注目すべきは音楽家のジストニアで,これは楽器演奏時に生じる上肢の筋緊張異常によって当該の楽器演奏に支障をきたす病態です。この場合,問題となる上肢筋の筋緊張を緩和させるよう治療対象を選びますが,力を落としすぎると逆に演奏活動への影響が出ることが懸念されます。また,上肢のように筋が近接しているところでは,ボツリヌス毒素製剤が隣接した筋に浸潤していくことも多く,そうすると予期しない筋力低下が生じます。これもボツリヌス治療において頭を悩ませる問題に挙げられます。
ジストニアの外科治療の成績向上は目覚ましく,こうした音楽家を含めた職業性の上肢ジストニアについては,DBSのほかにも視床凝固術で症状がほぼ消失した例が少なくありません。
いずれにしても穿頭手術ですから,患者も少なからず躊躇する場合がほとんどであり,それは当然のことと思います。内科としては当方の治療の限界にあることをお話しし,行う,行わないは別にしても,一度脳神経外科の先生の説明をお聞きになるようにお勧めしています。外科侵襲には一定のリスクも伴いますが,その点,内科の立場から憶測でお話しするよりも,実際に経験されている外科の先生から直接ご説明頂くほうが理にかなっていると考えています。

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