【Q】
パーキンソン病は運動障害を主徴とする疾患ですが,最近,運動障害以外の問題症状,すなわち非運動症状もかなりの高頻度で認められることが注目されています。実際,どんな症状があって,臨床的にはどんな影響があるのでしょうか。秋田県立脳血管研究センター・前田哲也先生にご回答をお願いします。
【質問者】
渡辺宏久:名古屋大学脳とこころの研究センター特任教授
【A】
ご指摘の通りパーキンソン病は黒質線条体系のドパミン神経伝達不全から運動症状をきたす疾患ですが,それ以外の問題症状,すなわち非運動症状が複雑に合併します。その存在はJames Parkinsonの原典,“An Essay on the Shaking Palsy”にも既に著されていますが,近年の研究から,次の2つの点で非常に注目を集めています。
1つは,非運動症状は運動症状に先行することからパーキンソン病の早期診断に役立つ可能性があるためであり,もう1つは,非運動症状は運動症状にまさるとも劣らず患者の日常生活に質的な悪影響を及ぼす要因となりうるためです。
非運動症状は大まかに自律神経不全症状,睡眠障害,気分障害,認知機能障害,感覚障害などにわけられます。特に自律神経不全症状は様々な問題を含んでおり,消化管障害,直腸膀胱障害,外分泌障害,心臓交感神経障害,発汗障害などにわけられます。これら多彩な症状の中で,便秘,レム睡眠行動異常症,嗅覚障害,うつなどが,パーキンソン病の運動症状に先んじて出現する可能性が明らかにされました。パーキンソン病の国際学会組織であるMovement Disorder Societyでは,これらをパーキンソン病発症リスクととらえて,超早期診断のためのリサーチクライテリアに組み込むための取り組みを既に始めています。これは,将来開発されると見込まれる疾患修飾薬の臨床試験にとって非常に重要になると予想されます。
一方,現実に目を向けると,非運動症状には対症療法が行われていますが,臨床的には治療に難渋することもしばしばであり,患者の日常生活は著しく阻害されます。私の検討では,各々の重症度も生活の質の低下に影響しますが,軽症であっても複数の症状が合併していれば,同様に生活の質が低下することがわかりました。現状では対症療法しかありませんが,1つでも非運動症状を改善することがきわめて重要であることがご理解頂けるのではないかと思います。パーキンソン病の運動症状に対する理解はドパミン補充療法の概念のもとで,十分に成熟期を迎えたように思います。
今後は運動症状だけではなく生活の質の向上にも寄与できるように,また先制治療や疾患修飾治療など疾患の予防をも意図した治療の開発にもつながるように,非運動症状の理解がさらに進むことが期待されます。