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反復経頭蓋磁気刺激法(rTMS)によるうつ病の治療【薬物治療抵抗性患者への長期の多剤併用療法が緩和される可能性がある】

No.4803 (2016年05月14日発行) P.55

中村元昭 (神奈川県立精神医療センター医療技術部長)

登録日: 2016-05-14

最終更新日: 2016-10-25

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【Q】

難治性や生命危機の切迫したうつ病に対する治療として電気けいれん療法(electroconvulsive therapy:ECT)が日本を含めて世界で行われ,効果を上げています。全身麻酔下で筋弛緩薬を用いて行うため安全性が課題ですが,これに代わるより安全な脳刺激法として,反復経頭蓋磁気刺激法(repetitive transcranial magnetic stim-ulation:rTMS)が期待されています。
うつ病など精神疾患への効果,今後の適応の可能性と問題点について,神奈川県立精神医療センター・中村元昭先生のご教示をお願いします。
【質問者】
上田 諭:日本医科大学付属病院精神神経科講師

【A】

当センターでは,これまで100名以上の気分障害患者にご協力頂き,臨床研究としてrTMSの効果と安全性を検証してきました。このような経験の中で,rTMSによる抗うつ効果(effect size:0.4程度)は,ECTによる劇的な治療効果(effect size:0.9程度)とは質的に異なるという実感を持っています。薬物治療抵抗性のうつ病患者集団における治療反応者の割合についてみても,rTMSでは3~4割と報告されていますが,ECTでは7~8割と報告されています。これも臨床現場では大きな違いであると思います。ただ,安全性や忍容性の観点からは,rTMSは大変優れているという実感を持っています。
これまでの臨床試験のメタ分析から言えることは,rTMSは薬物治療抵抗性のうつ病患者に対して,抗うつ薬と同等のeffect sizeを示し,抗うつ薬以上の安全性・忍容性を示すということです。しかしrTMSは薬物治療抵抗性を示す患者群を対象としていることもあり,rTMSの治療反応者率(3~4割)は薬物療法のそれ(6割程度)よりも劣っています。うつ病臨床におけるrTMSの有用性は期待されるものの,決して「夢の治療」ではないことは,医療者も患者も十分に認識すべきであろうと思われます。
うつ病rTMSの臨床導入によって,薬物治療抵抗性患者への長期にわたる多剤併用療法が緩和される可能性が期待されます。抗うつ薬による副作用が顕著で十分量の内服の継続が困難な患者(薬物低耐性)への貴重な治療オプションとなることも期待されます。また,ECTを選択する前にrTMSという格段に侵襲性の低い治療オプションが存在することによって患者の心理的負担が軽減され,さらにはECTの適正使用が促進される側面も期待されます。
このように考えると,薬物療法とECTの合間を補完する治療オプションとしてうつ病rTMSの有用性がみえてくるかもしれません。精神病性の特徴を有したり,焦燥や希死念慮が切迫した症例に対してはrTMSよりもECTを選択するべきと考えます。しかしECTを適応するほど重症ではないものの,認知行動療法や復職支援プログラムを導入するには思考制止や意欲低下が強い,という不全寛解の症例が臨床現場では少なくありません。このように,十分な薬物療法を実施しても不全寛解のまま長期間遷延しているようなうつ病症例には,rTMSの可能性を試す意義があると思います。

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