【Q】
鼻閉や鼻漏,頭痛の原因となる副鼻腔炎はアレルギーや真菌とも関連し,病因が多岐にわたります。現在の副鼻腔炎の疾患概念について,またそれぞれの病態の薬物治療や手術適応はどのような基準で行うべきか,この分野でご活躍されている帝京大学ちば総合医療センター・杉本 晃先生のご教示をお願いします。
【質問者】
鈴木雅明:帝京大学ちば総合医療センター耳鼻咽喉科 教授
【A】
副鼻腔炎は,大きくわけて急性副鼻腔炎(急性鼻副鼻腔炎),慢性副鼻腔炎に分類されます。また現在,好酸球性副鼻腔炎や,アレルギー性真菌性副鼻腔炎が注目されています。
(1)急性鼻副鼻腔炎
急性鼻副鼻腔炎は,急性に発症する,発症から4週間以内の鼻副鼻腔の感染症です。鼻閉,鼻漏,後鼻漏,咳嗽といった呼吸器症状を呈し,頭痛,頬部痛,顔面圧迫感などを伴う疾患とされています。重症度に応じた治療が重要とされ,現在,日本鼻科学会が「急性鼻副鼻腔炎診療ガイドライン2010年版」〔急性鼻副鼻腔炎診療ガイドライン追補版(2013)パブリックコメント用暫定版〕を公表しています。ガイドラインでは鼻腔所見と臨床症状の重症度の各項目をスコアにて評価し,スコアの総計により重症度を評価します。
成人では,「顔面痛/前頭部痛,鼻漏,鼻汁あるいは後鼻漏の性状・量」の3項目,小児では,「鼻漏,不機嫌・湿性咳嗽,鼻汁あるいは後鼻漏の性状・量」の3項目です。症状,鼻内所見から,8点までの点数をつけて,1~3:軽症,4~6:中等症,7~8:重症と分類します。そして,急性鼻副鼻腔炎治療アルゴリズムに沿って,抗菌薬の投与,5日後の判定,抗菌薬の変更や上顎洞穿刺による洗浄などによる治療方法を選択します。
(2)慢性副鼻腔炎
成人のびまん性汎細気管支炎に対するマクロライド系薬の少量長期投与の効果が,1980年代に報告されました。それ以来,耳鼻咽喉科領域でも慢性気道疾患である細菌性慢性副鼻腔炎に対してマクロライド系薬の少量長期投与が有効であると報告され,現在,慢性副鼻腔炎に対する保存的治療法として,マクロライド少量長期投与療法が広く用いられるようになっています。しかし,治療抵抗性で改善しない場合は手術的治療が行われます。以前は比較的侵襲の大きな手術でしたが,現在では多くの症例で内視鏡下の侵襲の少ない手術(endoscopic sinus surgery:ESS)ができるようになっています。
(3)好酸球性副鼻腔炎
好酸球性副鼻腔炎は,鼻茸の再発を高率に認める難治性の副鼻腔炎です。その病態生理には依然不明な点が多く,臨床像では両側性かつ多発性の浮腫性鼻茸を示し,組織学的には,鼻茸や副鼻腔粘膜に好酸球優位な炎症性細胞浸潤がみられることが多いとされています。
診断基準として,末梢血好酸球が6%以上,副鼻腔CTで篩骨洞優位の副鼻腔陰影を認めることが,Sakumaら(文献(文献1)により示されています。治療として,手術以外には,ステロイドの全身投与が著効しますが,長期間のステロイド内服を余儀なくされることから,副作用に難渋する例も少なくありません。近年,抗IgE抗体(オマリズマブ)投与によりポリープの縮小を認めたとの有効性が報告されています。
(4)アレルギー性真菌性副鼻腔炎
アレルギー性真菌性副鼻腔炎(allergic fungal rhinosinusitis:AFRS)は,真菌に対する免疫応答により生じる副鼻腔炎です。機序として,副鼻腔に侵入した真菌が副鼻腔内で増殖し,Ⅰ・Ⅲ型アレルギー反応やT細胞応答が起こり,好酸球性ムチンが貯留します。貯留したムチン内で真菌はさらに増殖し,ムチンの貯留は炎症性メディエーターの産生を促し,粘膜の炎症・浮腫を起こします。この反応で副鼻腔は換気不全となり,さらに病状が悪化し,悪循環に陥ると考えられています。
典型例では片側の顔面疼痛が強く,CTでの片側性の部分的な高信号域,MR(T2強調)での同部位の低~無信号域といった特徴的な像を呈します。AFRSの治療法は,手術療法とステロイドの全身投与が有効とされていますが,そのほかにも局所ステロイド,抗真菌薬,免疫療法が有効とされています。
1) Sakuma Y, et al:Auris Nasus Larynx. 2011;38(5):583-8.