【Q】
新生児のクロストリジウム・ディフィシル(C. difficile)について。
保菌率は,ほぼ100%というのが常識だとある医師から聞いたが,小生は産科に携わっていながら最近まで知らなかった。しかし,小生の施設では出生後から退院するまでの新生児からはまったく検出されない。またそれを取り巻く家族にも発症があるという話は聞かない。
もしC. difficile保菌率100%が事実であれば,その由来は何か。いつ頃から保有するのか,病原性はどうか。またいわゆる院内感染としてのC. difficile保菌とはどこが異なるのか。明快なお答えを。 (京都府 O)
【A】
新生児期のC.difficile保菌率は施設ごとに様々である。産道感染などの母子感染というよりも環境から菌を獲得しており,その病的意義はいまだ不明である。
(1)新生児の保菌
C.difficileの保菌率は施設によってまちまちであり,0~90%と様々な報告がある(文献1~3)。母体のC. difficile保菌率は0~1%であり,また経膣分娩と帝王切開で保菌率に差がないこと,母体の性器からC.difficileが検出されることはほとんどないことなどから,感染経路は産道感染などの母子感染ではない。
一方で,C.difficileは病院の環境から検出されることがあり,新生児の出生後数日は保菌はなく,数日後から徐々に保菌率が上昇してくることや,NICUへの入院は保菌リスクになることなどから,環境から感染していると考えられている(文献2~4)。高い保菌率を示す文献の多くはNICU入院中の新生児を対象にしている。
(2)新生児期以降の保菌率
新生児期以降の保菌率も報告により異なる。患者背景も報告によって異なるが,いずれの報告も新生児期から乳児期にかけて比較的高い保菌率を認める。新生児期に最も高く徐々に減少する報告(0~1カ月:37%,1~6カ月:30%,6~12カ月:14%,1~2歳:10%)3)や,1歳前後でピーク(37~48.5%)(文献1,5)となり,徐々に減少する報告など様々である。
また,2歳以降は徐々に減少して成人の保菌率(0~3%)に近づいていく点は共通して認められる特徴である。
(3)小児のC. difficileの病原性
小児におけるC.difficileの病原性は低い。小児の保菌率は前述のように成人に比べて高いが,毒素産生株の割合が低いという報告が多い(文献1,3~5)。また,ウサギをモデルとした研究報告(文献6)から新生児・乳児の腸管上皮細胞には毒素に対するレセプターがないため,たとえ毒素産生株が検出されたとしても,新生児・乳児に対する病原性は低いと考えられている。
一方で小児におけるC.difficileは重要視されるようになってきている。1つはC.difficile感染症の発症の報告が増えてきているということである。年齢が上がるにつれ,毒素結合部位が増加するためC.difficile感染症が発症しうる。また,基礎疾患がある小児を中心に2歳未満でもC.difficile感染症の報告がみられるようになってきており,注意が必要である(文献4,7)。
もう1つは,乳児における病原株の無症候性保菌は成人におけるC.difficile感染症の重要な感染巣となっている可能性が指摘されていることである。2歳未満の小児との接触が成人のC.difficile感染症発症のリスク因子となっているという報告がなされている。また,産後にC.difficile感染症を繰り返した原因が新生児の保菌にあったという母親の症例が報告されている(文献4,8)。
(4)保有者への対応
小児のC.difficile保菌を積極的に除菌するべきか,除菌に意義があるかどうかは不明であり,保菌している小児への除菌は推奨されていない。さらに,C.difficile感染症の報告が増えてきていると言っても無症候性保菌者のほうが圧倒的に多く,下痢のある小児からC.difficileが検出されてもC.difficile感染症と診断することは難しい。そのため,特に2歳未満の小児でのC.difficileの培養や毒素の検査は原則行うべきではなく,十分に検査前確率が高い状況においてのみ検査するように限定するべきである(文献7)。
1) Furuichi M, et al:J Infect Chemother. 2014(in press).
2) Al-Jumaili IJ, et al:J Clin Microbiol. 1984;19 (1):77-8.
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4) Khalaf N, et al:Discov Med. 2012;14(75):105-13.
5) Enoch DA, et al:J Infect. 2011;63(2):105-13.
6) Eglow R, et al:J Clin Envest. 1992;90(3):822-9.
7) Schutze GE, et al:Pediatrics. 2013;131(1): 196-200.
8) Hecker MT, et al:Clin Infect Dis. 2008;46(6): 956-7.