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パワードプラ法とは

No.4711 (2014年08月09日発行) P.63

白石泰之 (東北大学加齢医学研究所心臓病電子医学分野准教授)

鈴木一郎 (仙台市医療センター仙台オープン病院臨床工学室技士長)

登録日: 2014-08-09

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

心エコーで用いられるパワードプラ法とはそもそもどういうものか。画像に出力される周波数はいずれの部位も同面積で,中心周波数を中心にして左右対称になるのはなぜか。
さらに,パワードプラはどのように求めるのか。 (高知県 F)

【A】

超音波検査などで用いられるパワードプラ法は,被検者の生体内の血流を観察するために,超音波ビームの角度や血管の走行角度によらない血流ドプラ信号のエネルギー積分値を求め,画素上に表示するものである。これによってX線を用いた造影法のような脈管の血流イメージが得られるという特徴がある。
一般にこのような信号抽出手法は,直交検波として放送や通信技術に広く利用されている。現在ではデジタル信号処理によって解析されることが多く,その場合,実時間での周波数変換やパワースペクトルの領域面積の積分値算出は実際に行われずに,デジタルプロセッサで高速変換される。

[1]超音波検査におけるパワードプラ法
診断機器でも前述のようにデジタルプロセッサで処理されており,この際,パワードプラ(振幅)信号とカラードプラ(位相)信号に変換されて出力される。
血流を見ることができるパワードプラ法では,被検者の血流信号の周波数より高い周波数の要素をローパスフィルタによって取り除くとともに,時間変化の少ない臓器実質部分などの低周波信号成分を除去した周波数が出力される。
パワードプラ法ではエネルギー積分により算出された画素領域の平均値が出力されることから,画像では空間的にも相対的に均一化されて見えるため,左右対称となる。パワードプラ法は高周波の振幅変動に対して安定した値を示す。ただし,細かな信号変化は積分により平均化されるため,時間的・空間的に変動の小さな信号の検出は困難である。また,血流速値と血流の方向の情報が得られない。しかし,複雑な流路形状を持つ臓器や細小血行路ネットワークをモニタできることや,流れに直行しても血流の振幅を評価できること,表現できる血流速範囲が広いこと,血管壁近傍の描出がクリアであること,が利点として挙げられる。
このように,パワードプラ法は,微小血管の循環モニタリングに有用な方法となっている。

[2]パワードプラの求め方
まず,ドプラ信号を,
A(t)e-j(ω0+ωd)t   (1)
で表されるものとする。ここで,
A(t):血流の持つ振幅
ω0:入力した参照用信号の角速度
ω0+ωd:ドプラ信号の角速度
t:時間
と置く。
超音波ドプラを用いた画像診断では,ドプラ効果によって位相が変化した血流に対して,位相に依存しない振幅A(t)(パワードプラ)と,位相変化ωd(カラードプラ)を計算して表示している。
パワードプラとカラードプラを算出する,つまり,この式でA(t)とωdを取り出すためには,式(1)のドプラ信号に共役複素信号(ejω0t)をかければよいことになる(式(2))。
A(t)e-j(ω0+ωd)t・ejω0t
=A(t)e(-jω0t-jωdt)・ejω0t
=A(t)e-jωdt (2)
このようなパワードプラ計算によって,脈管の複雑な構造を面でとらえて血流エネルギーを得ることができる。また,エネルギー積分であるため,血流速度表示の折り返し現象が生じないことから脈管構造を見るのに有効である。

【参考】

▼ Evans DH, et al:Doppler Ultrasound:Physics, Instrumentation and Signal Processing. 2nd ed. Wiley, 2000.

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