【Q】
薬剤の一般名の表記法について。たとえば,エステル化合物の場合,かつては「酪酸ヒドロコルチゾン」というように表記されていたものが,最近は「ヒドロコルチゾン酪酸エステル」というように表記されている。
この変化について,何か理由はあるか。あるとすればその経緯を。(千葉県 K)
【A】
わが国の医薬品の一般名は,厚生労働省の医薬品名称調査会が医薬品一般的名称(Japanese Accepted Name:JAN)として決定している。同一医薬品の呼称が複数存在すると,種々の理解困難やミスが起きるからである。
平成18年に第15改正日本薬局方において日本名命名法が変更され,それに伴い,医薬品のJANの命名法も変更された。質問のエステル化合物については表のように変更されている。
参考までに,従来の医薬品で,これと同じ理由で変更されたものを新名称でいくつか挙げてみる。
フルチカゾンプロピオン酸エステル,ロキサチジン酢酸エステル,ラニナミビルオクタン酸エステル,トコフェロール酢酸エステル,エリスロマイシンエチルコハク酸エステル,キタサマイシン酢酸エステル,クロルマジノン酢酸エステル,テストステロンプロピオン酸エステル,トコフェロール酢酸エステル,ハロペリドールデカン酸エステル,など。
JANの英名は,たとえば新名称であるヒドロコルチゾン酪酸エステルも,旧名称である酪酸ヒドロコルチゾンも,ともに,hydrocortisone butyrateであり,表記は変わっていない。日本語名称だけが変わっている。
改正されたことによって日本語名称が少し長くなって,煩わしい感じがするという意見もあるかもしれない。ただし,改正の意図は活性本体の名称(たとえばヒドロコルチゾン)を先に立てるためである。
修飾的な構造部分(たとえば酪酸)は後ろに置く。こうすることによって薬物名を見てすぐに活性本体がイメージできる。
また,薬の検索項立てをする場合も活性本体が先に出ているから検索しやすい。英語ではもともと活性本体が先に置かれているので,こうした問題はない。