【Q】
人工弁置換術後の抗凝固療法でダビガトランが不適な理由と,抗凝固療法を必要としない人工弁(Trifecta生体弁)の耐用年数などを。 (千葉県 K)
【A】
(1)人工弁置換術患者に対するダビガトラン禁忌の理由
人工弁置換術は使用する人工弁の種類によって機械弁,生体弁にわけられ,人工弁植え込み部位によって大動脈弁位,僧帽弁位にわけられる。一般に,機械弁使用患者にはワルファリンによる抗凝固療法が選択され,INR2.0~3.0にコントロールされる。INRのコントロールには定期的な採血とワルファリン投与量の決定が不可欠である。そこでトロンビン阻害薬であるダビガトランが人工弁置換術患者に対してワルファリンに代わる抗凝固療法になれば,定期的な採血の必要もなくなるため大きなメリットがあると考えられる。
こうしたことを背景にEikelboomら(文献1)は機械弁植え込み患者でワルファリンとダビガトランの比較試験(RE-ALIGN)を行い,2013年に報告している。ダビガトラン群(n=168),ワルファリン群(n=86)で開始されたが,中間解析でダビガトラン群の血栓塞栓症および出血リスクの上昇が明らかとなったために中止され,機械弁置換術後の抗凝固療法としてダビガトランはワルファリンに代わる薬剤ではないことが証明された。したがって,機械弁置換術後ではワルファリンの代わりにダビガトランを使用することは禁忌である。
しかしながら,Duraesら(文献2)は生体弁置換術,心房細動例で血栓塞栓発症回避率をワルファリンとダビガトランで比較して,ダビガトランの非劣性を報告している。今後の大規模試験が待たれるところではあるが,生体弁置換術症例で心房細動合併例では,ダビガトランはワルファリンの代わりとなる薬剤になる可能性がある。
(2)Trifecta生体弁の耐用年数
ステントの外側にウシの心嚢膜を取りつけたことで広い有効弁口面積が期待できるTrifecta生体弁は,2011年に欧州と米国,2012年に日本で導入された。Ugurら(文献3)は新しいデザインの生体弁3種類(Trifecta, Mitroflow, Perimount Magna)で血行動態の検討を行い,それぞれ平均圧較差(11.4mmHg,16.9mmHg,14.1mmHg)や有効弁口面積(2.22cm2,1.85cm2,2,09cm2)において,ともにTrifecta生体弁が優れていることを報告している。この弁の耐久性はin vitroでの耐久試験では優れた成績を示しているが,いわゆる生体弁の構造的破損(structual valve deterioration:SVD)がいつ頃,どのような病態で進行するか,広い有効弁口面積が遠隔期にどのように変化するかについては明らかになっておらず,今後の課題である。
NYHA心機能分類に悪影響を及ぼさない時点での再手術の成績は良好である(文献4)ことから,SVDの診断が心エコー図検査などで容易で,その進行がゆるやかであれば安全な再手術のタイミングを選択できる。
囊 日本の多施設研究(文献5) でCarpentier-Edwards per-icardial(CEP)弁の遠隔成績(591例,平均年齢72歳)を見ると,SVD回避率10年,15年は97%,88%であり,特に65歳以上でのSVD回避率15年は94%ときわめて優れた報告がある。Trifecta生体弁は石灰化処理と構造が異なるが,CEPと同等かそれ以上の成績が期待できるものと考える。