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Dupuytrenの熱傷分類とは

No.4735 (2015年01月24日発行) P.62

猪口貞樹 (東海大学医学部外科学系救命救急医学教授)

登録日: 2015-01-24

最終更新日: 2016-12-12

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【Q】

Dupuytrenの6段階の熱傷分類とはどのようなものか。
現在は3段階(Ⅰ~Ⅲ段階)の評価法が多く用いられているが,なぜ6段階の評価法は用いられていないのか。また,活用法にどのような違いがあるか。 (東京都 K)

【A】

現在,日本熱傷学会,米国熱傷学会,欧州熱傷学会をはじめ,多くの学術団体では,熱傷の深度をⅠ~Ⅲ度(もしくは同義の名称)の3段階にわけた上,さらにⅡ度熱傷を浅Ⅱ度熱傷と深Ⅱ度熱傷にわける分類法(表1)を用いており,ほとんどの学術論文はこの分類に基づいて記載されている。
Dupuytrenの分類(文献1)は現在の熱傷深度分類と概念的には似ているが,同じ用語・表現であっても異なる深度を示す(たとえばDupuytrenの分類における3rd degreeは,現在の評価法での深Ⅱ度熱傷を示す)ため,錯誤や過誤につながる可能性がある。したがって,診療では一切使用しないようお願いしたい。
参考までに,以下にDupuytren分類の内容,現在の熱傷深度分類との大まかな関連(表1),熱傷深度に関する現在の課題について述べる。
熱傷の程度は,16~17世紀頃から,臨床所見,組織破壊の深さ,病理組織学的所見,治療法など様々な観点により分類されてきた。このうち組織損傷の深度という観点から,19世紀前半にフランスの外科医Guillaume Dupuytrenが考案したものが当該分類法である。その後も,各国,学会,施設などにより様々な分類が用いられてきたが,1940年代以降,しだいに整理され,現在の熱傷深度分類に至っている。なお,皮膚全層熱傷および筋肉や骨に及ぶ損傷は,現在の熱傷深度分類ではすべてⅢ度熱傷に包含される。
熱傷創の状態は本来動的なものであり,時間とともに変化する。特に受傷後数日間は熱傷組織の周囲に不安定な部分(zone of stasis)が存在し,循環障害などによって時間とともに組織破壊が進行する。さらに,熱傷深度にはしばしば不均一性がみられるため,明らかなⅢ度熱傷を除いて,受傷後早期に熱傷深度を正確に判定することは専門医にも困難である(文献2)。特に浅Ⅱ度熱傷と深Ⅱ度熱傷の境界は定義からも明確ではなく,判定は困難であり,受傷後3週間以内に上皮化するか否かが目安になっている。
一方,熱傷深度は,重症度判定に加えて治療法の判断,特に手術のタイミングや術式に影響するため,できるだけ早期に正確な深度判定を行うことは,診療上の重要課題である。
最近では,熱傷深度の判別にレーザードップラー画像診断(laser doppler imaging:LDI)をはじめとする補助診断が用いられ,ある程度の成果が得られている(文献3)。また診断のみならず,熱傷創およびその周囲組織を保護して組織障害の進行を低減させ,熱傷を浅い深度にとどめて外科治療の範囲を縮小させるという試みも行われてきた。近年,このような治療法についても有望な研究成果が報告されている(文献4)。

【文献】


1) Dupuytren G:Lecons orales de clinique chirurgicale, faites al’Hotel-Dieu de Paris. 1832, p413-516.[http://babel.hathitrust.org/cgi/pt id=ucm.5312156379;view=2up;seq=1]
2) Singer AJ, et al:N Engl J Med. 2008;359(10): 1037-46.
3) Jaskille AD, et al:J Burn Care Res. 2010;31 (1):151-7.
4) Bohr S, et al:Proc Natl Acad Sci USA. 2013;110 (9):3513-8.

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