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マムシやヤマカガシにかまれたときの対処法

No.4738 (2015年02月14日発行) P.65

堺  淳 (日本蛇族学術研究所主任研究員)

登録日: 2015-02-14

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

マムシ,ヤマカガシにかまれたときの対処法について。
(1)かまれた部位より中枢部を縛るべきか否か。
(2)かまれた部位の処置について。乱切開をするべきか否か。
(3)抗毒素の接種は必須か。もし接種をしないとすれば,その場合に使用する薬剤について。
(4)マムシ,ヤマカガシの毒素の特徴について。組織の壊死,神経毒,DIC(播種性血管内凝固症候群)を発症するのかなど。 (愛知県 W)

【A】

[1]かまれた部位よりも中枢部を縛るべきか否か
現在では,局所の組織損傷を起こすような毒蛇による咬症では,緊縛によって蛇毒を局所にとどめることで損傷を大きくする危険性が高くなるため,緊縛は勧められていない。また,患者は細いひもなどで完全に血流が止まるほど強く縛りすぎていることが多く,そのことによる悪影響も考えられる。
ただし,神経毒は吸収が速く,呼吸麻痺の危険があるため毒の吸収を遅らせる必要がある。その場合,包帯などで骨折時のように患部の前後を含めて広く巻いて固定するクレープバンデージ法が勧められている。マムシ咬症でも医療機関に行くまでかなり時間がかかる場合にはこの方法が勧められるが,腫脹の広がりにより圧迫が強くなるため,ときどきチェックして調節する必要がある。
ヤマカガシ咬症でも,短時間で医療機関まで行けるようであれば,縛る必要はない。
[2]かまれた部位の乱切開の必要性の有無
排毒を目的として,咬傷部位もしくは数箇所の切開が行われることがある。しかし,蛇毒にはヒアルロニダーゼが含まれていて,その拡散吸収は速いため,医療機関での切開や吸引はほとんど効果が認められない。逆に切開による治療日数の長期化がみられるため,切開は勧められない。
[3]抗毒素の接種は必須か
軽症では必要ない。ただし,その診断が難しい場合も多く,受傷後数時間では重症化するかどうかの判断ができないことが多い。ただ,高齢者では重症化する危険性が高く,年間5名ほどの死亡者のほとんどが60歳以上であり,多くは抗毒素の未投与や遅れによるものである。
血管に毒が注入されたケースでは,抗毒素は不可欠である。血小板数が1時間以内に1万以下まで減少することもあり,そのような場合には,全身性の出血,血圧の低下,心不全などにより1~2日で死に至ることもある。また,腫れの広がりに伴って横紋筋融解を起こし,数日で急性腎不全を起こすケースもしばしばあるため,経時的な血液検査によりこれらの徴候がみられるようであれば,抗毒素により毒を中和して,その進行を止める必要がある。
ヤマカガシ咬症では,フィブリノーゲンの減少や出血傾向がみられれば,抗毒素の投与は不可欠である。この場合,DIC,急性腎不全へと進行する危険性は高い。
いずれの場合も,抗毒素投与前には必ず抗ヒスタミンとステロイドを投与し,抗毒素は30分~1時間かけて点滴静注する。
その他,広域スペクトルの抗菌薬,消炎薬,破傷風トキソイドまたはテタノブリンやメシル酸ガベキサートなども使用される。
[4]マムシ,ヤマカガシ毒の特徴
(1)マムシの毒
マムシ咬症では腫脹が主な症状であり,そのピークは1~3日後で,腫れの強い場合には横紋筋融解による急性腎不全がしばしば引き起こされる。局所の壊死はみられないが,指の腫脹が強い場合には,コンパートメント症候群により壊死を起こすこともあるため,早期の減脹切開が必要である。
また,毒が血管に注入された場合には,毒の血小板凝集作用や末梢血管拡張作用が強く作用し,急激な血小板の減少や血圧の低下を引き起こす。その結果,出血斑や消化管出血などがみられるが,フィブリノーゲンへの直接作用はほとんどないため,重症例でもその減少はあまりみられない。
なお,マムシ毒にはわずかに神経毒が含まれており,複視などの神経症状がみられることもあるが,1週間ほどで回復する。しかし,複視などの出現は比較的多くの毒が注入されたことを示しており,重症化の危険がある。
(2)ヤマカガシの毒
ヤマカガシ毒の作用は,ほとんどプロトロンビンの活性化作用のみで,顕著なフィブリノーゲンの減少を引き起こす。その結果,歯茎や古い傷などからの持続性出血や出血斑,時には消化管出血などもみられる。血管内凝固の進行に伴って血小板も減少し,DIC,さらに急性腎不全へと進行する。受傷後,1時間以内に一過性の頭痛がみられるケースでは100%重症化しており,時には脳内出血の危険があるため,頭痛がみられる場合は早期に抗毒素を投与する必要がある。

【参考】

▼ 堺 淳:中毒研究. 2007;20(3):235-43.
▼ 堺 淳:中毒研究. 2013;26(3):193-9.

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