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孤立性心房細動の定義と抗凝固療法の必要性

No.4747 (2015年04月18日発行) P.62

益永信豊 (国立病院機構京都医療センター循環器内科院内医長)

赤尾昌治 (国立病院機構京都医療センター循環器内科部長)

登録日: 2015-04-18

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

孤立性心房細動(lone atrial fibrillation)の定義と,これに対する抗凝固療法の必要性の有無をご教示下さい。 (東京都 F)

【A】

孤立性心房細動は,一般的に「60歳未満で臨床所見と心エコー所見で高血圧を含めて心肺疾患のない心房細動」と定義されることが多くみられます。ただ,文献や時代によってその定義は様々です。年齢の基準を設けないもの,心疾患のみに限定し高血圧を入れないもの,甲状腺疾患を含めるものなど,研究者によって定義が異なります。また脳梗塞のリスクを過小評価する恐れがあるので,この名称を使用すべきでないという意見もあります。日本循環器学会の「心房細動治療(薬物)ガイドライン(2013年改訂版)」では,臨床現場で混乱を生じる恐れがあるとして,「孤立性心房細動」の呼称は使用されなくなり,「臨床上明らかな器質的心疾患(肥大心,不全心,虚血心)のない心房細動」(文献1)と表現されています。
心房細動患者では,脳梗塞のリスク評価を行った上で適切な抗凝固療法を行うことが必要です。上記の日本のガイドラインでは,リスク評価を行う上でCHADS2スコアの使用が推奨されています。心不全,高血圧,75歳以上,糖尿病をそれぞれ1点,脳梗塞または一過性脳虚血発作(TIA)の既往を2点とした6点満点のスコアです。2点以上で年間脳梗塞発症率が4%以上,1点で2.8%,0点で1.9%と報告されています(文献2)。
2点以上の患者では,抗凝固療法による塞栓症の予防効果が出血性合併症のリスクを上回るため,抗凝固療法が推奨されます。1点では,出血性合併症のリスクを加味して抗凝固療法の施行を考慮します。逆に0点の患者では,出血性合併症のリスクが塞栓症の予防効果を上回るため,抗凝固療法は不要と考えられます。
「孤立性心房細動」の患者では,CHADS2スコアは0点または1点(糖尿病患者の場合)となります。0点の場合には抗凝固療法は不要と思われます。また1点の場合でも,若年で器質的心疾患のないことから塞栓症のリスクは比較的低いと考えられます。
いずれにしても,抗凝固療法のメリット,デメリットを十分に患者に説明した上で治療方針を決定すること,経過とともに高血圧,心機能低下などを発症するケースがみられるため定期的なフォローを行い,常に塞栓症のリスク評価を行うことが重要です。
文献】
1) JCS Joint Working Group:Circ J. 2014;78(8):
1997-2021.
2) Gage BF, et al:JAMA. 2001;285(22):2864-70.

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