【Q】
変形性膝関節症の治療法の1つにヒアルロン酸(HA)注入療法があります。ヒアルロン酸には様々な分子量のものがありますが,それぞれの特徴および適応などを。 (山梨県 K)
【A】
[1]ヒアルロン酸とは
ヒアルロン酸は人間の体の様々なところに存在しており,特に関節においては関節液や関節軟骨に多く存在し,潤滑や衝撃吸収の働きをしています。また,ヒアルロン酸は1g当たり6Lの水を保持することができ,保湿に関しても重要な働きをしています。ヒアルロン酸は1934年にウシの硝子体(眼球)から発見され,硝子体をギリシャ語でhyaloidと言うことから,hyaluronic acid(ヒアルロン酸)と命名されました。
整形外科領域では1987年,国内で「変形性膝関節症」の治療薬として認可され,その有効性については多くの報告があります(文献1,2)。1989年に「肩関節周囲炎」の適応が追加され,さらに2005年に「関節リウマチにおける膝関節痛」の適応が追加されました。加齢や変形性膝関節症ではヒアルロン酸の濃度や分子量が減少すると言われます。正常膝のヒアルロン酸濃度は0.3~0.4%,分子量は約400万と言われますが,変形性膝関節症では濃度は0.1~0.2%,分子量は約250万に減少します。
[2]ヒアルロン酸の関節内注射製剤
現在使用されているヒアルロン酸の関節内注射製剤は3種類あります(表1)。そのほかに多数のジェネリック医薬品が発売されていますが,この3剤の特徴と適応,副作用について述べます。
(1)アルツディスポR
・薬価:1453円
・分子量:50~120万
・効能・効果:1)変形性膝関節症,肩関節周囲炎
2)関節リウマチにおける膝関節痛(次記a.~d.の基準をすべて満たす場合に限る)
a. リウマチ薬などによる治療で全身の病勢がコントロールできていても膝関節痛のある場合
b. 全身の炎症症状がCRP値として10mg/dL以下の場合
c. 膝関節の症状が軽症から中等症の場合
d. 膝関節のLarsen X線分類がGradeⅠ~GradeⅢの場合
・ 副作用:総症例9574例中,副作用が報告されたのは50例(0.52%)73件でした。また,臨床検査値には一定傾向の変動は認められませんでした。変形性膝関節症については,7845例中にみられた副作用45例(0.57%)68件の主なものは,局所疼痛37件(0.47%),腫脹14件(0.18%),関節水腫3件(0.04%)でした。肩関節周囲炎については,1729例中にみられた副作用5例(0.29%)5件の主なものは,局所疼痛4件(0.23%)でした。
(2)スベニールRディスポ
・薬価:1332円
・分子量:150~390万
・効能・効果:(1)と同様
・副作用:承認時までの臨床試験,市販後の使用成績調査および市販後臨床試験における安全性評価対象例3179例中,129例(4.06%)179件の副作用(臨床検査値異常を含む)が認められました。主な副作用は,投与関節での疼痛41件(1.29%),ALT(GPT)上昇12件(0.38%),ALP上昇10件(0.31%),AST(GOT)上昇9件(0.28%),LDH上昇8件(0.25%)などでした。
(3)サイビスクディスポR
・薬価:9924円
・分子量:600万以上
・効能・効果:保存的非薬物治療および経口薬物治療が十分奏効しない疼痛を有する変形性膝関節症患者の疼痛緩和
・投与方法:1週間ごとに連続3回投与を1クールとし,原則1クールとします。複数回クールでの有効性・安全性は確立していません。
・副作用:海外における変形性膝関節症患者を対象とした7試験〔症例数511例(559膝),1771回の投与〕において,511例中46例(9.0%)に副作用が認められました。投与部位に認められた副作用は疼痛28例(5.5%),腫脹24例(4.7%),こわばり,しびれ感,灼熱感,不快感各1例(各0.2%)でした。
[3]3剤の比較と問題点
3剤の比較から,分子量の増加につれて副作用頻度が増加する傾向にありました。特に,投与関節の疼痛がアルツディスポ0.47%に対し,スベニールディスポ1.29%,サイビスクディスポ5.5%と高分子量ほど多く発現するという結果でした。
適応症に関しては,サイビスクディスポはいまだ変形性膝関節症のみであり,高価です。したがって,副作用の懸念や患者の経済的側面を考慮して適応を厳選する必要があります。
1) Zhang W, et al:Osteoarthritis Cartilage. 2008;16(2):137-62.
2) Bannuru RR, et al:Osteoarthritis Cartilage. 2011;19(6):611-9.