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原因不明の血管炎・皮膚潰瘍の診断

No.4761 (2015年07月25日発行) P.63

駒井宏好 (関西医科大学附属滝井病院末梢血管外科教授 /血管内治療センター長)

登録日: 2015-07-25

最終更新日: 2016-12-13

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【Q】

57歳,女性。以下の表のように,14歳の頃から四肢の先端~その付近に循環障害・皮膚潰瘍が出現。これを繰り返すため両下腿切断,両手指切断を施行。現在,電動車椅子を自操作し移動しています。ここ十数年来,両上下肢の疼痛を訴えて頻回に入院してモルヒネ塩酸塩の注射をしています。
今までも膠原病の専門医に診察してもらい,データではCRPと血沈の上昇以外は血管炎や膠原病を示唆する所見はなく,原因不明の動脈閉塞症としか診断しえないということでした(局所所見は正常です)。考えられる病態と対応についてご教示下さい。

14歳 虫垂切除2日後より四肢に紫斑かlivedoが出現。両側外果に皮膚潰瘍出現
15歳 大学病院皮膚科に入院。精査するも原因不明
18歳 結婚。冬季,腰部以下にチアノーゼ(livedo
様病変)出現
20歳 男児出産
21歳 第2子妊娠中に左第3趾に難治性潰瘍が出現したが出産後治癒
22歳 右第3趾・右足関節外側に潰瘍出現。難治性で疼痛が強く,右下腿切断術施行。病理は原因不明の血管炎。ステロイド,抗凝固療法開始
23歳 左第2趾切断
24歳 左第4趾切断。その後左第5趾,左第3趾切断
37歳 左足に潰瘍が出現。難治性で疼痛が強く,11月に左下腿切断
45歳 左示指チアノーゼで疼痛が強く,2月に左示指切断。4月に左小指切断
53歳 6月に右小指切断

現在は肘や両下腿断端などにときどき小さい発赤腫脹,びらんを伴う疼痛が出現しますが,著明な増悪には至らず,プロスタグランジン製剤投与を行っています。
処方薬はプレドニン1錠,サインバルタ,バイアスピリン各1錠,モルヒネ塩酸塩,オパルモンなどです。
現在も四肢の疼痛のためモルヒネ塩酸塩の注射をしており,依存症になっている面も多分にあると考えられます。なお,全身状態にあまり変化はなく,橈骨動脈や大腿動脈の拍動は触知します。
2003年の検査結果でクリオグロブリン(+)との記載がありました。2015年に行った血液検査のデータは以下の通りです。

発熱(-),血圧:130/70mmHg,CRP:0.27mg/
dL,WBC:6300/μL,RBC:400万/μL,Hb:12.6g/dL,Ht:37.4%,PLT:21.0万/μL,BUN:7.4mg/dL,Na:141mEq/L,K:4.1mEq/L,Cl:105mEq/L,尿糖(-),蛋白(-),血清補体価40.3,抗好中球細胞質抗体:(PR3-ANCA)1.0/(MPO-ANCA)1.0

(千葉県 K)

【A】

ご質問の症例は,糖尿病や膠原病がなく若年の頃より四肢の潰瘍が多発しているとのことで,ご指摘の通り血管炎が疑われます。女性ではありますが,若年発症で下腿や上肢にも虚血病変があり,ほかに動脈硬化症のリスクファクターを持たないとすると,喫煙歴さえあればバージャー病と診断することが可能です。
上述した診断要件は,いわゆる塩野谷の診断基準(表1)(文献1)と言われるものです。バージャー病は原因が特定されておらず,特異的な検査所見もないため,このような臨床症状によって診断されています(図1)。
診断をより確定的にするために動脈造影検査を施行し,動脈硬化性病変を否定することも必要です。ただ,治療法は主には対症的なものとなってしまいますので,本例では侵襲的検査を今の段階で行っても臨床的には意味があまりないかもしれません。虚血症状の緩和にはまずは禁煙で,これだけでも病状の進行が止まることが多いとされています。これは受動的喫煙も含めてであり,家族や職場の協力も不可欠です。その上でプロスタグランジン製剤やそのほかの血管拡張薬,抗血小板薬の投与を行うことが原則ですが,特効薬はなく,虚血症状の続く患者には交感神経節切除術が有効な場合もあります。
バイパス手術や血管内治療も早期には有効ですが,末梢動脈の開存が絶対条件であり適応患者は少ないとされています。その上,血管炎が主体の病気ですので,長期開存は期待できません。血管再生治療も有効との報告がありますが,まだ研究段階の域を脱していません。
バージャー病と診断される前に,本例でチェックしておくべきことはプロテインCやS,アンチトロンビン,プラスミノーゲンなどの欠損症,および抗リン脂質抗体症候群などの先天的または後天的凝固線溶異常です。
筆者ら(文献2)の経験ではこれらが閉塞性動脈硬化症に合併すると重症下肢虚血になることが多く,予後も不良と考えています。複数回の血液検査で明らかになることもあり,繰り返し行うべきとされています。

【文献】


1) Shionoya S, et al:Int J Cardiol. 1998;66(Suppl 1):S243-5.
2) 駒井宏好, 他:脈管学. 2006;46(4):405-10.

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