【Q】
認知症患者に著しい頻尿をみることがありますが,頻尿は認知症の周辺症状(behavioral and psychological symptoms of dementia:BPSD)と考えてよいですか。また,過活動膀胱治療薬や向精神薬などが無効の場合の治療薬選択を教えて下さい。 (福岡県 K)
【A】
排尿障害の中でも,まず尿失禁と認知症の関係について述べます。認知症がいったん進行すると,機能性尿失禁が必発してみられます。これは,トイレで排尿する意思がない,トイレの場所・便器が判断できない,衣類の着脱の仕方がわからない,などが原因となるものです。排尿および尿失禁に対する無関心がしばしば同時にみられます(認知症による尿失禁)。また,歩行障害を同時に有している場合,トイレに間に合わず失禁してしまうことがあります(歩行障害による尿失禁)。
機能性尿失禁の対処として,認知症・歩行障害の治療とともに,時間排尿を促し(行動療法),やむをえない場合,おむつの着用を行います。近年,行動療法を体系的に行い,認知症患者のおむつはずしに成功した事例も知られています。
一方,認知症がごく軽度であるにもかかわらず,頻尿・尿失禁(過活動膀胱,overactive bladder:OAB)がみられる場合があります。そのような患者に対して膀胱機能検査を行うと,排尿筋過活動がしばしばみられます。いわば,膀胱が,患者の意思と無関係に勝手に,「トイレに行きたい」と言っているような状態です。OABは,健常成人の12.4%にみられ,高齢者に多く,認知症の原因疾患の中では,隠れ脳梗塞,レビー小体型認知症で多く,アルツハイマー病でも中程度にみられます(文献1~ 3) 。その機序として,膀胱抑制的に働 く,前頭前野,大脳基底核の病変が推定されています(図1)。認知症患者のOABは,中枢移行の少ない抗コリン薬など(OAB治療薬)を選ぶことにより,ある程度の改善が期待できます(図2)(文献4)。
さらに,高齢患者一般に,前立腺肥大症,腰椎症,糖尿病性ニューロパチーなどの合併疾患による残尿が少なからずみられます。残尿があると,有効膀胱容量が減り,二次的に頻尿をきたします。高齢患者の残尿量の評価には,超音波残尿測定器(「ブラッダースキャン」)のほか,貼付型持続超音波残尿測定器(「ゆりりん」)も有用です。
ほかの原因として,夜間多尿(1日尿量の50%が夜間に出る),女性の腹圧性尿失禁(咳をすると漏れる),尿路感染症などがあります。少数派ですが,認知症の有無にかかわらず神経症に伴う心因性頻尿(残尿がないのに1時間に5回以上トイレに行く)がみられることもあります。排尿を含めた様々なことにこだわるヒステリー症状,イライラ,緊張性頭痛などがしばしば同時にみられます(文献5)。
これが認知症とともにみられる場合,BPSDの一部と考えられ,ほかのBPSDと同様の対処が必要と思われます。その際,気分安定薬・抗うつ薬(一部にOAB改善作用を期待(文献5) )から開始し,十分でないときは,歩行障害(錐体外路徴候)の少ない向精神薬を選ぶとよいと思われます。
1) Sakakibara R, et al:Int J Urol. 2008;15(9):778-88.
2) 榊原隆次:排尿障害. 2014;22(3):217-22.
3) 榊原隆次:認知症に伴う排尿障害,夜間頻尿の病態と対策. 日早期認知症会誌. 2015. [in press].
4) Sakakibara R, et al:J Am Geriatr Soc. 2009;57(8):1515-7.
5) Sakakibara R, et al:LUTS. 2013;5(3):109▼20.
6) de Groat WC:Br J Pharmacol. 2006:147(Suppl 2):S25-40.