【Q】
日本製薬工業協会(製薬協)が2014年秋に発表した,官公立の大学,病院所属医師への利益供与の自主規制とは何ですか。 (東京都 S)
【A】
ご質問は2014年9月18日に製薬協から発表された,「『企業活動と医療機関等の関係の透明性ガイドライン』に基づく情報公開について」(文献1) のことです。近年,製薬企業からの資金提供による臨床研究において様々な不正が発覚し,医師・医学研究者への社会からの信頼が揺らぎかねない事態をまねいています。医学・医療の進歩・発展のためには医師・医学研究者と製薬企業との協力は必要ですが,それは適切な関係に基づいていることが条件です。特に,製薬企業から医師・医学研究者に提供される様々な資金について透明性を担保し,社会からの信頼を得るようにする必要があります。これを利益相反の管理と呼びます。利益相反とは,中立的な立場で第三者のために業務を遂行すべき立場の者が,自分や関係他者の利益を優先し,その中立性を損なうことです。
このような背景のもと,2011年に製薬協から公表されたのが,「企業活動と医療機関等の関係の透明性ガイドライン」(文献2)です。ちなみに,製薬協は国内の医療用医薬品を販売している企業101社のうち,新薬開発志向型の企業72社が加盟しているため,このガイドラインは国内のほぼすべての製薬企業が遵守していると考えてよいでしょう。このガイドラインは,製薬企業から医師・医学研究者に提供される資金を公にすることで,資金提供によって医師・医学研究者のその活動が不適切にならないようにすることを目的とするものです。
このガイドラインはご質問のように官公立の大学,病院所属の医師のみを対象としたものではなく,以下のごとく,すべての医療機関,医療関係者を対象としたものです。
(1)医療機関:病院,診療所,介護老人保健施設,薬局,その他医療に係る施設・組織〔保健所,地方公共団体(学校),健康保険組合など〕
(2)研究機関:医療機関に併設される研究部門,大学の医学・薬学系部門,大学の理学・工学等におけるライフサイエンス系の研究部門,その他のライフサイエンス系の研究部門等
(3)医療関係団体:医師会,薬剤師会,医学会,薬学会等のほか,医学・薬学系の団体(社団法人,財団法人,会社法人,NPO法人,社団等)
(4)医療関係者等:医療担当者(医師,歯科医師,薬剤師,保健師,看護師,その他医療・介護に携わる者),医療業務関係者(医療担当者を除く医療機関の役員,従業員,その他当該医療機関において医療用医薬品の選択または購入に関与する者),および医学,薬学系のほか,理学,工学等におけるライフサイエンス系の研究者
各製薬企業は自社のウェブサイトを通じて,前年度分の下記の資金提供について公開することになっています。
A)研究費開発費等:共同研究費,委託研究費,臨床試験費,製造販売後臨床試験費,副作用・感染症症例報告費,製造販売後調査費,その他の費用
B)学術研究助成費:奨学寄附金,一般寄附金,学会等寄附金,学会等共催費
C)原稿執筆料等:講師謝金,原稿執筆料・監修料,コンサルティング等業務委託費
D)情報提供関連費:講演会等会合費,説明会費,医学・薬学関連文献等提供費
E)その他の費用:接遇費用
当初これらは2013年度から公開することになっていましたが,日本医師会,日本医学会,全国医学部長・病院長会議との協議に基づき,項目Cについてのみ2014年度からの公開となりました。2014年からの公開の理解を得るために発表されたのがご質問の声明文です。
項目Cの公開後,2015年3月に一部週刊誌などにより製薬企業から医師への資金提供についてセンセーショナルな報道が行われました。資金提供の公開のあり方,公開情報の解釈の啓発などについて,今後,さらに詳細な議論が求められます。
1) 日本製薬工業協会:「企業活動と医療機関等の関係の透明性ガイドライン」に基づく情報公開について.
[http://www.jpma.or.jp/event_media/release/news2014/140918.html]
2)日本製薬工業協会:企業活動と医療機関等の関係の透明性ガイドライン.
[http://www.jpma.or.jp/tomeisei/pdf/tomeisei_gl.pdf]