医療安全と医療の質向上を目指した新制度が創設された。診療行為関連死の院内調査と第三者機関への届出を全医療機関に義務づける医療事故調査制度が、来秋スタートすることになった。
19本の法律が一括りになった「地域における医療及び介護の総合的な確保の推進に関する法律」。同法成立により、今後の医療安全体制が大きく変わる新制度が創設された。「医療事故調査制度」だ。医療事故の原因究明と再発防止を目的に、一括法の1つ、改正医療法に制度創設が位置づけられた。2015年10月にスタートする。
調査対象は、全国の医療機関に勤務する医療従事者が提供した医療に起因、または起因すると疑われる死亡・死産のうち、医療機関の管理者がその死亡・死産を予期しなかったもの。
該当事例が発生した際に医療機関は、第三者機関に報告した上で、院内調査を行い、調査結果も第三者機関に報告。さらに遺族に対しても説明し、調査報告書を開示する。
厚労省は、院内調査を支援する組織を都道府県医師会や大学病院など各都道府県に複数設ける方針。
第三者機関は、中立性・専門性を有する組織を厚労省が1機関、指定する。類似事業を行っている「日本医療安全調査機構」「日本医療機能評価機構」が候補だ。ここでは、全国の院内調査の結果を検証して再発防止策を普及啓発するほか、遺族や医療機関の要請があれば調査を行い、その調査報告書を遺族と医療機関に通知する。
調査費用は、院内調査は医療機関が負担する一方、第三者機関の調査は、国の補助金に加えて、調査を要請した遺族や医療機関にも負担を求める予定。
なお、捜査機関との関係については、第三者機関から警察に通報しないことが決まっている。
国会審議で特に懸念されたのは、調査報告書が訴訟や行政処分に使用される可能性だ。田村憲久厚労相は、「制度の目的は紛争解決ではなく、原因究明と再発防止なので、報告書が警察や行政に届けられることはない」と明言する一方で、「司法の場で報告書が参考資料として使用される可能性は排除できない」と述べている。そのため報告書は、個人名記載や責任追及はしないなど、訴訟使用の可能性に配慮した内容にするとした。詳細は制度の具体的運用を定めるガイドラインで示すという。
「医療機関の管理者が予期しない死亡または死産」とは、どういう場合を指すのか。これも国会審議で問われた問題だ。田村厚労相は「例えば合併症など予期しえなかったもの」と例示した上で、「届出事例の基準を標準化し、ガイドラインで示す」とした。
死産については原因特定が困難であることなどから、届出対象とすることに疑問が示されたが、厚労省は、この届出基準もガイドラインで定めるとする。
このように、制度の枠組みは決まっているものの、詳細についてはその多くが、今後厚労省が作成するガイドラインに委ねられている。次回は、現在ガイドライン案を検討している厚労省研究班の班長、西澤寛俊全日病会長に議論の進捗を聞く。