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日付の記載のない退職願を事前提出するよう言われたのですが…

 【労働者本人の意思に反する退職として不適切行為とみなされる】

No.4786 (2016年01月16日発行) P.64

脇田 滋 (龍谷大学法学部法律学科教授)

登録日: 2016-01-16

最終更新日: 2016-12-14

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【Q】

助教(助手)に就任する際,「日付けを記載しない退職願」を教授に提出するように言われた。このように,あらかじめ「日付けを記載されない退職願」を提出させているのは,労働法などに抵触しないのか。するとしたらどのような法律か,ご教示下さい。 (岐阜県 K)

【A】

退職は,労働者と使用者の間に結ばれる労働契約を,労働者の側から将来に向かって一方的に終了(解約)させる意思表示です。労働基準法,労働契約法は,いずれも契約の成立や終了には,労使の自由な意思によることを前提にしています。退職も,その時点での労働者の真の意思によることが必要不可欠です。教授が,採用の時点で「日付を記載しない退職願」を助教から提出させることは,退職という意思表示を本人以外の者が行う点で,きわめて不適切な行為です。
民法では,期間を定めない雇用契約は,通常,当事者の解約申入れから2週間で解約できるとしています(第627条)。「日付のない退職願」は,退職の意思表示を労働者(助教)本人から上司(教授)に委任させるものであり,退職が,本人の真の意思によらず,教授の「恣意」によるなど,不適切な結果になりかねません。日付のない退職願を出させるということ自体が,労働基準法による,労働者本人の意思に反する拘束禁止(第5条,第14条)や労働条件の労使対等決定原則(第2条)の定めに反します。
次に,労働契約の解約には,使用者による「解雇」と労働者による「退職」が明確に区別されます。
特に,労働契約法第16条では,使用者による解雇は,合理的な理由と社会的な相当性がなければ権利濫用として無効であると規定されています。教授自身は,厳密には使用者(法人)ではありませんが,実態としては使用者にきわめて近い立場と言えます。したがって日付のない退職願による退職は,形式的には「労働者による退職」ですが,実質的には「使用者による解雇」と考えられます。
要するに,助教の採用時に,日付のない退職願を教授が預かることは,法的には「解雇」を規制する労働基準法,労働契約法などを回避する「脱法行為」と考えられます(表1)。これは,裁判を含む労働紛争の原因になりかねません。使用者(法人)としては,教授の不適切な行為を止めさせ,助教が安心して働けるように配慮することが求められます。

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