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同種薬はほぼ同時期に発売されている気がするのですが…

No.4802 (2016年05月07日発行) P.66

小野俊介 (東京大学大学院薬学系研究科 医薬品評価科学教室准教授)

登録日: 2016-05-07

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

DPP-4阻害薬,SGLT2阻害薬,NOACなど同種薬がほぼ同時期に発売される理由を教えて下さい。 (千葉県 K)

【A】

疾患治療に役立つ可能性がある生体内のターゲット分子や部位が基礎研究で新たに明らかになると,世界中の製薬企業がそのターゲットに作用する新規化合物(ターゲット分子に結合する抗体を含む)の開発を始めます。
現在,自然界に普通に存在する遺伝子や蛋白そのものには特許が認められず,ターゲットそのものを誰かが独占することはできませんので,企業は各社独自にそのターゲットに最適化された製品をつくり出そうとします。糖尿病などの市場規模の大きな疾患領域では,1つのターゲットに対して10社以上の企業がほぼ同時期に各社期待の候補物質の開発を進めるということも稀ではありません。
新薬の臨床開発(健康人での第1相試験から有効性を検証する第3相試験まで)には通常5年程度かかり,その間に,新薬が期待するほど効かないといった理由で,一部の企業は開発競争から脱落します。一方,無事に自社製品の有効性・安全性を検証することに成功した何社かの企業は,ほぼ同時期に,厚生労働省から販売の許可を得て,新薬を発売します。
ご質問にある新薬は,確かにある時期にまとまって販売開始されたという印象がありますが,「ほぼ同時期」と言っても,最初に発売された製品とその後に続いた製品の間には,実は数年間の発売時期の差があります。製薬企業にとっては,その発売時期の差が(それがわずか2,3カ月であっても)きわめて重要で,死活問題です。わずかな時間でも市場での独占期間があれば,医療機関における薬剤の採用に著しく有利に働くことは明らかです。
日本では,時間の遅れだけでなく,番手も重要です。政府が保険診療における薬の価格を決定する日本の薬価制度では,類似の薬理作用を有する他社の先行品から3年以上発売が遅れ,かつ,先行品が市場に既に3つ以上ある場合(つまりその薬が4番手以下の場合)には,新薬の薬価にいわゆるボーナス加算がつかず,事実上既存薬の最低薬価に設定されてしまうという商売上のハンディキャップを負うこともよく知られています。
以上のことを製薬業界の人々はむろん熟知しており,先行した製品に少しでも開発が追いつくよう必死の努力をします。このため,先行企業から開発が著しく遅れてしまい,仮に発売しても市場での一定のシェアが見込めない場合や,低い薬価しかつけてもらえないと予想される場合には,その製品の開発を途中で中止する企業も現れます。
このような理由から,同種の新薬の発売がほぼ同時期(数年間)に集中するという現象が生じます。ただし,例外はあります。武田薬品工業が日本で7番目のアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)であるアジルバR錠を先行する自社品(ブロプレスR錠)の発売から13年後に発売したケースは,そうした例外の1つです。企業の特許戦略(後発品対策)もこうした動きと関係しています。

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