【Q】
55歳,睡眠障害の男性。既往歴なく,内服薬なし。睡眠時無呼吸症候群(sleep apnea syndrome:SAS)(-),BMI 26。翌日が休日の場合,入眠はさほど困難ではないが,あまり良くない夢を見て1.5~3時間おきに覚醒してしまう。熟眠感がなく,一日中欠伸が絶えない。睡眠導入薬を内服すれば通常の睡眠がとれる。合間にトイレ(小)を済ますが,いくらでも寝ていられるという。治療方針を教えて下さい。 (東京都 S)
【A】
悪夢は様々な睡眠障害で出現する可能性があり,まずその鑑別が重要です。あまり良くない夢で覚醒するとのことであり,その間隔からみても,レム睡眠のサイクルにほぼ一致して覚醒を生じている可能性が考えられます。熟眠感がなく一日中欠伸が絶えないという症状からは,眠気の存在も疑われるため,睡眠の質的障害を伴う睡眠障害が背景にある可能性があります。翌日が休日の場合は,入眠はさほど困難ではないものの平日には入眠困難があるのであれば,心理的背景も考慮されます。夢体験は,必ずしもレム睡眠を主体とする夢関連の病態だけではなく,睡眠の質的障害や心理的要因・精神疾患によっても増加しうることに注意が必要です。
悪夢を主体とする睡眠障害としては,悪夢障害とレム睡眠行動異常症(REM sleep behavior disorder:RBD)があります。悪夢障害は,不快な夢が思い出され,睡眠からの中途覚醒が繰り返し認められ,混乱や失見当識などを伴わずに覚醒するものを言います(表1)(文献1)。本例では該当しないと思われますが,頻回の悪夢は急性ストレス障害や心的外傷後ストレス障害とも関連します(文献2)。RBDは高齢の男性に多くみられ,攻撃的,防衛的な夢体験と,夢内容と一致した発声や運動・行動が特徴です。1人で寝ている場合には,自身の行動には気づいていない場合もありますので,鑑別が重要です。
睡眠関連てんかんが悪夢を生じる場合があるほか,ナルコレプシー患者もよく悪夢を訴えます。また,中途覚醒や熟眠障害をきたしうるSASなどの睡眠障害が併存していないかも確認する必要があります。本例ではSASは否定されていますが,SASでは経鼻的持続陽圧呼吸療法(nasal continuous positive airway pressure:nCPAP)により悪夢が減少・消失する症例があります。RBDや睡眠関連てんかん,その他の睡眠障害の併存を疑う場合には,終夜睡眠ポリグラフィによる専門的な精査が必要です。
治療方針は,どのような疾患を背景としているかによって異なってきます。睡眠薬の内服により見かけ上の覚醒が減少しても,その原因が残存している場合には,熟眠感や眠気が改善しません。RBDでは,クロナゼパムが有効です。ただしSASがある場合は,クロナゼパムはSASを増悪させるので注意が必要です。悪夢障害の治療には,レム睡眠を抑制する作用のある三環系抗うつ薬などが用いられます。精神疾患が背景にある場合には,その治療が必要です。
悪夢は夢そのものの病気というよりは,悪夢を増やす背景があって生じうることを念頭に置いて,十分な鑑別を行うことが重要です。
1) 日本睡眠学会診断分類委員会, 訳:睡眠障害国際分類. 第2版. 米国睡眠医学会. 医学書院, 2010, p161-4.
2) 福田一彦:日臨. 2013;71(5):448-50.