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食物アレルギー診療におけるプロバビリティーカーブの利用法

No.4702 (2014年06月07日発行) P.63

伊藤浩明 (あいち小児保健医療総合センター内科部長)

登録日: 2014-06-07

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

最近,食物アレルギー児の管理のためのプロバビリティーカーブが注目されています。陽性的中率が95%以上となるIgE抗体レベルをディシジョンポイントと呼びますが,IgE抗体価がこれより高い場合,経口負荷試験なしで食物アレルギーと診断してよいとされています。しかし,ディシジョンポイントは報告者により差があり,「食物アレルギー診療ガイドライン2012」でも,列記するだけで統一されていません。食物アレルギーの「学校生活管理指導表」の診断根拠に「IgE抗体がディシジョンポイント以上」という項目を追加する必要もあるかと思います。
プロバビリティーカーブによる食物アレルギー診断の可能性と課題,展望について,あいち小児保健医療総合センター・伊藤浩明先生にご回答をお願いします。
【質問者】
木村光明:静岡県立こども病院免疫アレルギー科科長

【A】

プロバビリティーカーブとは,ある患者母集団において,任意の特異的IgE抗体価における食物アレルギーの確定診断率を,ロジスティック回帰分析によって示したものです。
これまでに報告されているプロバビリティーカーブの多くは,国内外の専門施設における経口負荷試験の結果に基づいてつくられています。したがって,その施設における経口負荷試験の適応や,受診患者のバイアスによって結果が異なります。
たとえば,明らかなアナフィラキシー歴のある患者や,逆に症状なく日常的に摂取できている患者は,経口負荷試験の対象とならないため,データに反映されません。アレルギーの既往があり,耐性獲得確認目的の経口負荷試験を多く含む母集団では,同じ抗体価でも陽性率が高くなる傾向があるでしょう。さらに,抗体価の高い部分と低い部分は,実際のサンプル数が少ない中で計算によって得られた推定値となっています。
ディシジョンポイントは,陽性的中率が95%を超える抗体価とされています。この値が正確であるためには,ディシジョンポイントを超える症例が実データとして多数存在していることが必要です。この値が報告によってばらつくのは,それ以下の抗体価を持つデータからの計算によって得られた情報が多いためと考えられます。
最近では,こうした問題を解消するために,一定の病歴や臨床的背景を持つ患者集団を選んでプロバビリティーカーブを作成する試みが進んでいます。実地医家のニーズにある乳幼児の初期診断に限定したデータや,陽性者の中でも重篤な誘発症状を予測するデータなど,利用者の目的に合わせて抗体価をより精密に評価するための情報が検討されています。
プロバビリティーカーブは,その作成された背景を理解した上で診療の参考にするものであり,食物アレルギーの絶対的な診断根拠になるものではありません。「学校生活管理指導表」には,ディシジョンポイントにかかわらず,IgE抗体価が高値のため摂取していない食物については,給食では除去と暫定的に記載せざるをえないでしょう。その上で,それが正しい診断かどうかを確認するためには,専門医による経口負荷試験を含めた評価を依頼して頂ければと考えます。

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