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甲状腺分化癌で片葉切除を行った症例に対する補完全摘の適応

No.4708 (2014年07月19日発行) P.63

岡本高宏 (東京女子医科大学内分泌外科教授)

登録日: 2014-07-19

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

分化癌は乳頭癌と濾胞癌に大別されます。後者の場合,大半が術前診断は不可能で,最初の手術は片葉切除になります。海外,特に欧米では術後濾胞癌と診断がつけば,後日残存甲状腺を切除する,すなわち補完全摘が一般に行われます。日本の場合は必ずしもそうはしていない施設のほうが多いように見受けられます。
濾胞癌は予後のよいものは非常によく,全例補完全摘を行うのはいきすぎだと思いますが,反面,きわめて予後の悪いタイプもあります。低分化癌,広汎浸潤型のような予後不良とされるもの以外で,一般に予後がよいとされる微少浸潤型においても,臨床病理学的所見によっては補完全摘を行ったほうがよいと個人的には考えておりますが,東京女子医科大学・岡本高宏先生は,どのような症例がその適応とお考えでしょうか。
また,サイズが小さくリンパ節転移が術前に明らかでない乳頭癌症例にも片葉切除が行われますが,私はその中でも高細胞型やWHOの低分化癌と診断された場合には補完全摘を勧めます。逆にサイズが大きく浸潤性もなく,術前の細胞診でも良性と診断されたものを切除して,病理検査の結果が乳頭癌であったとしても,通常型であればあえてそのまま経過をみる場合もありますが,このような症例をどう取り扱っておられますか。
【質問者】
伊藤康弘:隈病院治験・臨床試験管理センター長・外科

【A】

日本内分泌外科学会と日本甲状腺外科学会は2010年に「甲状腺腫瘍診療ガイドライン」を公開しました。その中に提示した診断と治療のアルゴリズムでは,微少浸潤型濾胞癌に対しては甲状腺補完全摘を行わずに経過観察する方針となっています。また,濾胞癌に対する補完全摘の適応として(CQ23),「広汎浸潤型であった場合やinsular componentなどの低分化成分を多く含む場合は,甲状腺補完全摘を行い,放射性ヨードを用いた遠隔転移巣の検索や放射性ヨード内用療法を行うことが勧められる」としています。
一方,解説では「微少浸潤型の予後は良好とされているが,長期間観察したものでは5~15%に遠隔転移が認められている」点を指摘し,「微少浸潤型であっても脈管侵襲を伴ったものや高齢者,男性例,腫瘍径が大きいものでは,遠隔転移の出現に十分注意して経過観察を行うべきと思われる」としています。すなわち,微少浸潤型であっても(遠隔転移)再発の懸念があります。懸念が高いと思われる患者さんにはこれらを説明し,補完全摘を勧めます。これら予後不良の臨床的特徴を欠く場合でも,危険回避の希望が強ければ,全摘・放射性ヨード内用療法の方針としています。
乳頭癌への対応は質問者と同じです。術後に判明した通常型乳頭癌に対しては追加治療せずに経過観察としています。T1N0M0で高細胞型あるいはWHO低分化癌という症例を最近は経験しておりませんが,予後不良の観点から,補完全摘を勧めると思います。

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