【Q】
心房細動(atrial fibrillation:AF)に対するカテーテルアブレーション(catheter ablation:CA)治療は,特に症候性の発作性AFに対して非常に有効性が高いと思いますが,長期に持続するAFへの適応や成績について。また,そのようなケースで洞調律化に成功した場合,抗凝固療法については,どのように考えるべきでしょうか。医仁会武田総合病院・江里正弘先生に。
【質問者】
赤尾昌治:国立病院機構京都医療センター循環器内科 部長
【A】
AF発症の契機となる期外収縮(トリガー)のほとんどが肺静脈内心筋由来である発作性AFに比べて,トリガーが心房筋の一部,もしくは全体に及んでいるとされる長期持続性(慢性)AFに対するCAの成績はやや劣るとの見解が一般的です。また,AF罹病期間や器質的心疾患の有無,左心房の大きさ,そして術者の経験などにより,その治療成績は左右されると言われます。
長期フォロー(5年超)を行った諸報告では,発作性AFにおけるCA後の洞調律維持率が90%前後であったのに対し,長期持続性AFにおけるそれは70~80%程度にとどまるとするものが散見されます(複数回の手技を含む)。
最近,日本循環器学会より発表された「心房細動治療(薬物)ガイドライン(2013年改訂版)」でも,持続性AFに対するCAの適応は「薬剤抵抗性で有症候性のもの」という記載のみで,具体的な左房径サイズやAF罹病期間についての記載はありません。また,適応レベルもクラスⅡaにとどまっています(CA治療が有効・有用である可能性が高い,というレベルであり,本治療が完全に浸透していないことを示唆)。ゆえに,適応に関しては各施設の術者の見解に委ねられている,というのが実情と思われます。
個人的見解ではありますが,70歳未満,AF由来の心不全や脳梗塞の既往を有する,洞結節機能異常や腎機能低下を有する,薬の服用アドヒアランスが不良,根治を希望,などを主要検討項目とし,複数回のCAの可能性もありうることを説明した上で個々の症例における適応を決めるようにしています。
長期持続性(慢性)AFにおけるCA後に完全なる洞調律維持ができているかを確認することは,わが国におけるスクリーニング方法(外来定時受診や24時間心電図を中心とした植え込みデバイスを用いないモニタリングなど)で可能とは言いがたく,特に無症候性AFの再発リスクは考慮されるべきです。現在のガイドラインではCAの結果にかかわらず,脳梗塞発症のリスク*に応じてCA後の抗凝固療法は長期にわたって継続すること(術後3カ月間は継続,3カ月以降はCHADS2スコア2点以上の患者で継続)が推奨されています。
CHADS2スコアが平均3点の高リスク症例の検討でもCA成功例では脳梗塞発症率がきわめて低いという海外の諸報告も散見されます。しかしながら,「成功」と言える明確な指標が特に長期持続性(慢性)AFの場合,現時点では見当たらないため,CHADS2スコア2点未満(ただし75歳未満,脳梗塞・一過性脳虚血発作の既往なし)で,かつ植え込みデバイスを主体とした厳重なモニタリング下においても長期洞調律維持がみられる場合を除き,可能な限り抗凝固療法は継続しておいたほうが無難と考えます。
*リスク評価はCHADS2スコアが用いられる。C:うっ血性心不全,H:高血圧,A:年齢≧75歳,D:糖尿病,S:脳卒中/一過性脳虚血発作の既往,の各リスク因子を点数化し,その合計点でリスク層別化を行う。C,H,A,Dには1点を,Sには2点を付与する。点数が加算される,すなわちリスク因子が重積するに従い脳梗塞発症率が高まるとされ,2点以上は “高リスク” に属する。