TAVIは2002年にAlan Cribierが初めてヒトへの埋め込みに成功しThe New England Journal of Medicineにケースレポートとして報告して以降,爆発的な広がりをみせてきました。
2010年になり358例の手術不能症例(PART NER Cohort B)においてバルーン大動脈弁形成術(balloon aortic valvuloplasty:BAV)を含む保存的治療とTAVI治療の2群に無作為に振り分けた結果,QOLの改善,弁機能の改善のみならず,1年後における総死亡率も有意に改善したという結果が報告されました。驚くべきことにNNT(num-ber needed to treat)は5という数字であり,いかにTAVIという治療が強力であるかがわかります。引き続きCohort Aといわれるハイリスク群に対するPARTNER試験が2011年に発表となり,TAVIは外科治療と比較して同等であるとの結果が発表されました。
手術不能例かハイリスク例かは,最終的にはハートチームの判断ですが,本来のTAVI適応例は手術不能症例のみです。実際の重症大動脈弁狭窄症患者のうち手術不能例は5%,ハイリスク症例は10%とされ,45%は低リスク,25%は中間リスクとされます。残り15%はCohort Cとされる集団で,高齢,虚弱,多臓器障害・多血管病を有し,TAVIですら適応外とされる患者さんです。
当初10%程度あった周術期死亡率はデバイスの改良,技術の革新とともに目覚ましい改善をみせ,現在,FRANCE registryでは2%台にまで低下しているとされます。本稿執筆時点で2013年10月1日の保険適用以降,わが国で施行されたTAVIはおよそ300例ですが,30日死亡率は1%程度で,TAVIは将来間違いなくAVRに匹敵する治療法になると思われます。
わが国で行われているTAVIはかなりの割合がハイリスクまたは中間リスク例に対するもので,虚弱であるという理由でTAVIが行われていることも少なくありません。ただ他方で,比較的リスクの低い患者に対してTAVIを施行すれば,成功率は上昇するのも必然です。
経皮的冠動脈形成術(percutaneous coronary intervention:PCI)やステントグラフトがそうであったように,日本においては低侵襲治療が受け入れられやすく,TAVIも例外ではありません。おそらくは世界中のどの国よりも技術的には隆盛を極めるでしょう。しかし他方,PCIやステントグラフトの適応について世界中から批判を浴びてきたことも事実です。未曾有の超高齢社会に突入した中,最も技術的に成熟したTAVIが,人の,または社会の幸福にどれほど貢献するのか,医療だけではなく,経済社会学的な観点からも検証する姿勢が,わが国のTAVIには求められるでしょう。