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パーキンソン病へのiPS細胞移植治療とジスキネジア出現

No.4725 (2014年11月15日発行) P.56

高橋 淳 (京都大学iPS細胞研究所臨床応用研究部門教授)

登録日: 2014-11-15

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

パーキンソン病に対するiPS細胞を用いた細胞移植治療の臨床研究が近く開始されますが,その治療コンセプトの基礎となった胎児中脳黒質細胞移植では,一部の症例において移植後の不随意運動(ジスキネジア)出現という副作用が報告されています。iPS細胞を用いた移植治療において,この副作用はありうるでしょうか。また,回避策はあるでしょうか。京都大学iPS細胞研究所・髙橋 淳先生のご回答をお願いします。
【質問者】
小芝 泰:京都大学大学院医学研究科臨床神経学

【A】

ご指摘のように,パーキンソン病に対する胎児中脳黒質細胞移植において術後の不随意運動(ジスキネジア)が報告されています。2001年と03年の二重盲検試験の報告では,それぞれ15%(33人中5人)と56.5%(23人中13人)の患者さんに術後のジスキネジアが出現しました。原因として2つの可能性が挙げられています。
(1)ドパミン神経細胞の生着が不均一なため,被殻内の部位によってはドパミン分泌量が高い部位が生じる。
(2)胎児組織を採取する際にドパミン神経細胞と隣り合っているセロトニン神経細胞の混入が避けられず,このセロトニン神経細胞がフィードバックのかからないドパミン産生を行う。
セロトニン神経細胞はl-ドパをドパミンに転換する酵素AADC(aromatic l-amino acid decarboxylase)を持っていますが,ドパミントランスポーターを発現していないので,ドパミン量の調節ができません。これらの原因によってドパミン刺激が過剰になり,ジスキネジアが起こるのではないかと考えられています。
iPS細胞を用いた移植治療では,まずiPS細胞からドパミン神経細胞を誘導します。この際に誘導法の改良が重ねられたことにより,中脳腹側の細胞だけをつくることが現在では可能になっています。セロトニン神経細胞は後脳に存在するので,この方法によりセロトニン神経細胞の混入はほとんどみられなくなります。さらに腹側の特異的マーカーを用いたセルソーティング技術で,中脳ドパミン神経細胞を濃縮することが可能になっています。こうしてiPS細胞を用いた移植では,セロトニン神経細胞の混入はほぼ避けることができるようになりました。
また,1部位当たりの移植量を少なくし,移植部位を増やすことによって,より均一なドパミン神経細胞分布が得られるように移植方法も改良されています。
さらには,患者さんの適応,すなわち病気のステージも検討されています。重症になりl-ドパによるジスキネジアがひどくなると異常な神経回路が形成されて,移植後においてもジスキネジアが起こりやすくなる懸念があります。そこで移植の適応として,ジスキネジアがまだ起こっていない,あるいはあっても軽症である,というステージが提唱されています。
これらの工夫によって,iPS細胞を用いたドパミン神経細胞移植では,術後のジスキネジアは回避できると考えられています。

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