【Q】
先天性頭蓋縫合早期癒合症患者は,複数回の骨切り治療を要します。骨延長術の導入により骨欠損などの問題は減じたものの,特に症候群性症例においては咬合位の獲得までの一連の治療を経て,成長が終了した段階でtemporal hollowingや眼窩周囲の骨の低形成からの眼球突出の再発を経験します。前者には人工骨などによる形成が有効と考えますが,後者の有効な治療法,特に眼球突出に対し,どの部位をどのような方法で治療するのが有効かについて,自治医科大学・菅原康志先生に。
【質問者】
野口昌彦:長野県立こども病院形成外科部長
【A】
ご指摘の問題は,症候群性や2つ以上の頭蓋骨縫合の早期癒合症にしばしばみられるものです。こうした疾患では基本的に頭蓋顔面骨のgrowth potentialが低いため,幼少時の眼窩周囲の手術により一時的に改善は得られますが,しだいに眼窩縁の前後的位置が正常より後退した状態になり,結果的に眼球突出が再発する傾向にあります。
治療は眼窩縁の前方移動を原則としており,眼窩内壁・下壁の移動による眼窩内容積の拡大や眼窩脂肪の減量などで対応することは行っていません。
治療計画は,眼窩の上1/2と下1/2にわけて考えます。
眼球瞳孔の位置が,その矢状面で眼窩上縁より3mm以上前方にある場合は,眼窩上縁の低形成があり,同様に眼窩下縁より8mm以上前方にある場合は,眼窩下縁の低形成があると判断しています(この値は正常値ではなく,頭蓋縫合早期癒合症における治療指針としての数字です)。
[1]眼窩上縁の低形成
眼窩上縁の低形成の場合は,次の3つから治療法を選択します。
(1)人工物〔polymethyl methacrylate(PMMA)やhydroxyapatite化合物〕により,眼窩上縁を中心としたfronto-orbital augmentationを行う
(2)自家組織(頭蓋骨,肋軟骨)により(1)と同様のaugmentationを行う
(3)再度(あるいは再々度),fronto-orbital advancement(FOA)に準じた手術を,延長法により行う
選択の条件として,まず手術手技は(1)から順に煩雑になっていきます。そのため,頭皮弁の条件が良いと判断される場合は,(1)を行います。ただ通常,複数回の手術後の症例がほとんどであり,頭皮の瘢痕が強い症例も多いため,人工物の使用による露出などのリスクを考慮し,(2)を選択する場合が多くなります。
整容的には,(1),(3),(2)の順に良好な結果が得られます。(2)の術式では,頭蓋骨・肋軟骨ともに数mmの厚さに加工し,それらをlag screwで固定します。細かい形状のものをつなげていきますが,間隙が生じないように配慮する必要があります。狭い間隙でも前額部ではそれが陥凹となって目立つことがあるため,バーホール作成時に出るbone dustや細片化した肋軟骨を使って,丁寧に間隙を埋めることが必要です。しかし,この術式では,augmentationの量が,採取する自家組織の量に依存することと,移植後の吸収による凹凸変形が問題となりますので,5mm以上のaugmentationが必要で頭皮の条件が悪い場合は(3)を選択します。しかし,この場合は,本来不要な頭蓋内容積の拡大を伴う術式になりますので,開頭のリスクなどを勘案すれば,実際に適応される症例は限られていると思います。
[2]眼窩下縁の低形成
眼窩下縁の低形成の場合は,次の2つから治療法を選択します。
(1)人工物により,眼窩下縁から頬部のaugmentationを行う
(2)自家組織(肋軟骨)により頬部のaugmentationを行う
いずれもほぼ同等の結果が得られますが,軟部組織の条件により術式を選択します。いずれの術式の場合でも,複雑な形状の頬部に良好なフィッティングで挿入できるように,あらかじめ術前に3次元モデルから挿入物の形態をシミュレーションしておくことが望ましいと思います。
眼窩上縁,下縁のいずれも低形成の場合は,両者に手術を施行することもあります。
最後に,症候群性の頭蓋縫合早期癒合症では先天性眼瞼下垂を合併していることが多いのですが,眼球突出によりそれがカモフラージュされています。このため眼球突出の治療により眼窩と眼球の位置関係が良好になった場合,潜在性の眼瞼下垂が顕著化することがしばしばあります。あらかじめその可能性を説明しておくとよいと思います。