【Q】
抗癌剤など分子標的治療薬による皮膚の障害について,東京慈恵会医科大学・石氏陽三先生に下記のご教示をお願いします。
(1) 皮膚の障害を起こしやすい代表的な分子標的治療薬
(2) 分子標的治療薬による皮膚障害の主な症状
(3) 皮膚障害への対処法
【質問者】
佐伯秀久:日本医科大学皮膚科教授
【A】
(1)皮膚障害を起こしやすい 分子標的治療薬
分子標的治療薬は,従来の殺細胞性抗癌剤における骨髄抑制などの有害事象はあまりみられませんが,高率に皮膚障害を呈します。
中でも上皮成長因子受容体(epidermal growth factor receptor:EGFR)阻害薬のゲフィチニブやエルロチニブ,モノクローナル抗体製剤であるセツキシマブやパニツムマブ,さらにマルチキナーゼ阻害薬のイマチニブ,ソラフェニブ,スニチニブ,レゴラフェニブなどが代表的なものです。
(2)主な症状
EGFR阻害薬は,腫瘍細胞のみならず,表皮基底層,外毛根鞘,エクリン腺,脂腺細胞などの正常皮膚にも作用するため,高率に皮膚障害を生じます。その主なものは,挫瘡様皮疹,脂漏性皮膚炎,皮膚乾燥,瘙痒症,爪囲炎などです。これらの特徴として,症状ごとの出現時期が異なること,皮膚障害の重症度とEGFR阻害薬の治療効果が相関すること,皮膚障害の予防対策が有効であることなどが挙げられます。
また,レゴラフェニブなどのマルチキナーゼ阻害薬は,手掌や足底に痛みを伴う発赤を呈する手足症候群を生じます。本症候群は早期の手足の異常感覚から始まり,その後,手足に疼痛を伴う紅斑が出現します。進行すると水疱,潰瘍を形成し,さらに慢性化すると,高頻度に胼胝・鶏眼が出現します。
(3)皮膚障害への対処法
挫瘡様皮疹の治療は,ステロイド外用薬を使用します。炎症の強い場合や膿疱を多数伴う場合には,テトラサイクリン系抗菌薬も有効です。皮膚乾燥に対しては,頻回に保湿薬を外用します。爪周囲に発赤・腫脹などを生じ,重症化すると不良肉芽が出現する爪囲炎には,ステロイド外用薬,スパイラルテープ法,抗菌薬の内服を行います。不良肉芽に対しては,凍結療法や炭酸ガスレーザーによる電気焼灼などを行います。
しかし,以上のような治療を行っても有害事象共通用語基準Grade3の症状が改善されない場合は,EGFR阻害薬の減量もしくは中止を考慮します。また,保湿薬・日焼け止め・ステロイド外用薬塗布および抗菌薬内服などによる分子標的治療薬の予防治療により,Grade2以上の皮膚障害の発現頻度が低下することも知られています。
手足症候群は,4週間以内の早期に症状が発現することが多いため,発症初期に炎症を抑えることが重要です。そのためには,治療当初から強力なステロイド外用薬を使用します。さらに,外的刺激などを回避することで,さらなる悪化を防ぎます。
分子標的治療薬の皮膚障害対策は治療継続のために非常に重要で,主治医のみならず,多職種との密な連携が必須となります。そのためには多職種によるチーム化,院内マニュアル作成,クリティカルパスの導入や予防治療のセット化などが有効です。