内閣府の調査(2009年)によれば、犯罪被害者のうち、精神健康状態が重度精神障害相当の割合は一般の10倍近くに上り、回復状況が悪い被害者は高い割合で二次被害を受けているという。
犯罪被害者の権利を保護する犯罪被害者等基本法が2004年に制定され、それに基づく犯罪被害者等基本計画では、「精神的・身体的被害の回復・防止」が重点課題となっている。現在、犯罪被害者を支援する「被害者支援都民センター」の副理事長を務め、日本の心的外傷後ストレス障害(PTSD)研究の第一人者である精神科医の飛鳥井望氏に話を聞いた。
当センターは日本初の被害者支援組織として2000年に創設されました。民間組織ですが、東京都公安委員会から「犯罪被害者等早期援助団体」の指定を受けています。指定を受けると、警察が被害者や遺族の同意を得た上で被害者情報を知らせてくれるので、こちらから被害者に声をかけることができます。今は、各都道府県に同様の組織がおおむね1カ所ずつ設置されています。加えて当センターは、東京都との共同事業として「犯罪被害者等のための東京都総合相談窓口」も設置しています。
こうした関係機関との連携により、自宅訪問、検察庁、警察署、裁判所、病院への付き添いなどの直接支援を必要に応じて行うほか、被害者自助グループへの支援、さらに、都からの補助金により、臨床心理士による心理的支援を無料で提供しています。
相談件数は電話やメールなども含めて年間5000〜6000件ほど。相談内容は性被害が最も多く、次いで交通被害、殺人と続きます。
PTSDに対する精神療法の中で最もエビデンスが確立している曝露療法(Prolonged Exposure Therapy〔PE〕療法)を中心に実施しています。諸外国の疫学研究によれば、自然災害後のPTSD発症はだいたい1割弱。交通事故後も同様の割合ですが、犯罪被害者は4割を超え、発生割合が高い。
センターでは2008年にPE療法を導入して以降、57名に行い、脱落者2名を除き、全例で症状が改善しました。PTSDにより休学・休職していた方も復学・復職し、非常に手応えを感じています。脱落者のうち1名は引っ越しが理由で、もう1名は脱落後に再び治療を望んで来訪されました。
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