フィンゴリモドは世界初の多発性硬化症(MS)経口再発予防薬である。冬虫夏草菌の一種から抽出され日本で開発されたが,海外製薬会社と共同で二重盲検試験を行い,米国とのdrug lagもわずか1年で,国内では2011年11月に発売された(文献1,2)。
作用機序は,リンパ球表面にあるS1P1(スフィンゴシン1リン酸)受容体に作用して二次リンパ節から末梢循環へのリンパ球の遊走を防ぐことで,脳に侵入する自己免疫性リンパ球を少なくすることにある。また,神経細胞やグリア細胞にも受容体が存在しており,脱髄からの修復への影響,脳萎縮を防ぐ効果など,他の薬剤にない副次効果が期待されている。
0.5mgのカプセルを1日1回内服する。初回投与時の徐脈性不整脈には注意が必要であり,欧米で投与24時間以内の死亡報告もあったことから,原則として入院し投与開始すべきである。ほかに黄斑浮腫,肝障害などが起こりやすい。リンパ球が減少しても感染症の増加は有意ではないとされているが,ステロイドパルス治療後などでは重篤な感染症をきたすこともある。生殖毒性があるため妊婦への投与は禁忌である。進行性多巣性白質脳症(PML)や長期の悪性腫瘍の発現リスクは不明である。
欧州,日本のガイドラインではセカンドチョイスであり,視神経性脊髄炎患者では悪化するため使用してはいけない。進行型MSへの効果,non-responderの解析が今後期待される。
1) Kappos L, et al:N Engl J Med. 2010;362(5):◆387-401.
2) 横山和正:多発性硬化症(MS)診療のすべて. 山村 隆, 編. 診断と治療社, 2011, p80.