多発性内分泌腺腫症2型(multiple endocrine neoplasia type 2:MEN2)は癌原遺伝子RETの変異によって甲状腺髄様癌,副腎褐色細胞腫,そして副甲状腺機能亢進症を発症する常染色体優性遺伝疾患である。中でも,甲状腺髄様癌は浸透率が高く生命予後にも関わるため,その早期発見・治療が重要である。
RET遺伝子の変異を調べることでMEN2の確実な診断がつくことから,患者の血縁者にも遺伝子検査を行い,保因者に対しては予防的(髄様癌発症前)に甲状腺全摘術を勧める報告がある。しかし,わが国ではその実施は稀で,専門家の間でも推奨の総意は得られていない(文献1)。予防手術で髄様癌発症を未然に防ぐことはできるが,小児の場合,甲状腺全摘後に成長過程に見合った甲状腺ホルモンの補充が必要となる。また,術後合併症のひとつである副甲状腺機能低下をきたした場合,骨の成長に影響する懸念もある。さらに,遺伝子検査が患者や家族に及ぼす心理・社会的影響も考慮すべきである。
予防的甲状腺全摘が良いのか,それとも発症後早期の手術で十分良好な予後が望めるのか,一律に決めることは難しい。RETの変異部位や家族歴,年齢など個別の特徴が判断の重要な拠りどころとなると思われる。
1) 多発性内分泌腫瘍症診療ガイドブック編集委員会 編:多発性内分泌腫瘍症診療ガイドブック. 金原出版,2013.