経口投与された薬物は小腸から吸収されて門脈血中に入り,肝臓を経由して全身循環に達する。小腸には薬物代謝酵素(CYP)や薬物輸送体P糖蛋白(吸収された薬物を腸管内に逆輸送する)が存在しており,薬物を含めた異物に対するバリアー機構が発達している。一方,小腸には薬物の吸収を促進する薬物輸送体OATP(organic anion transporting polypeptide)もある。
これまで,グレープフルーツがP糖蛋白やCYPを阻害するために代謝率の大きい薬物の血中濃度が上昇し,有害反応が出現する危険性が指摘されてきた。しかし,血中薬物濃度に影響を及ぼす果物はグレープフルーツのみではない。
最近の研究によって,グレープフルーツ,オレンジおよびリンゴがOATPを阻害することが明らかになり(文献1),腸管からの薬物吸収を抑制する可能性が示された。事実,これらの果物がレニン阻害薬アリスキレン,β遮断薬セリプロロールおよび抗アレルギー薬フェキソフェナジンの血中濃度をそれぞれ約60%,約80%および約70%低下させることが報告されている(文献2)。一方,これらの薬物は代謝率が小さいために,グレープフルーツなどでCYPが阻害されても,その影響は少ないものと考えられる。
以上から,薬物を投与する際には,グレープフルーツのみならず,オレンジやリンゴでも治療効果に影響を与える可能性を考慮したほうが良い。
1) Rodriguez-Fragoso L, et al:J Food Sci. 2011; 76(4):R112-24.
2) Dolton MJ, et al:Clin Pharmacol Ther. 2012; 92(5):622-30.