広範囲熱傷の診療は,全身と局所にわけて考える。急性期の全身療法が,循環血液量減少に対する輸液である点は,今も昔も変わりない。ただ,輸液の投与速度は減少傾向にあると言えるであろう。それは,過剰輸液による肺水腫や腹部コンパートメント症候群を危惧するからである。広範囲熱傷に対する急速輸液は,伝統的に時間尿量で調整してきた。そして,その時間尿量は,かつては0.5~2.0mL/kg/時の範囲を許容していたが,近年は0.5~1.5mL/kg/時に絞られてきた。さらに今日,日本熱傷学会の『熱傷診療ガイドライン』(文献1)では,0.5mL/kg/時以上を推奨している。言い換えれば,より少ない輸液量での維持を求めている。ドライサイドでの管理は,焼痂切除や植皮術にも有利に働く可能性がある。
一方,局所創面の治療原則は,抗菌薬の塗布から創保護と湿潤維持にシフトしている。以前は,Ⅱ度浅層の熱傷には抗菌薬含有ワセリン軟膏,Ⅱ度深層とⅢ度熱傷にはクリーム基剤にスルファジアジン銀配合薬の使用が常識であった。しかし,特にクリーム基剤を塗布したガーゼは,創に固着してこれを傷める上に,湿潤維持に無効である。今後は創に固着せず湿潤を保つ,ハイドロコロイドやポリウレタンフォーム素材が主流となるであろう。ただ,保険適用の問題から,広範囲には使用しにくい。そのため,固着性の低いシリコンや油状粒子含有ガーゼに,軟膏を塗布して用いることになる。Ⅱ度熱傷の治癒促進には,線維芽細胞増殖因子であるトラフェルミンが,2001年の販売以来用いられている。
1) 日本熱傷学会学術委員会, 編:熱傷診療ガイドライン. 第1版. 日本熱傷学会, 2009.