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統合失調症の病態:脳内GABA濃度

No.4766 (2015年08月29日発行) P.51

吉村玲児 (産業医科大学精神医学教授)

登録日: 2015-08-29

最終更新日: 2016-10-26

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統合失調症でのγ-アミノ酪酸(GABA)神経系機能低下では,統合失調症のGABA仮説大脳皮質領域の神経回路は,グルタミン酸を興奮性伝達物質として用い,脳内の離れた領域へ軸索投射をする錐体ニューロンと,近隣のニューロンへGABAを介した抑制性シナプスを形成する介在ニューロンとのバランスにより構成される。近年の死後脳研究により,統合失調症の大脳皮質では,介在ニューロンによるGABAを介した神経伝達の変化を示す所見が相次いで報告されている。
GABA神経機能が低下すると,グルタミン酸神経細胞は前頭前皮質から側坐核へ下降する。また,線条体では視床に投射するGABAは,過剰な感覚情報の前頭皮質への到達を緩和する役割を果たす。したがって,GABA神経機能が低下すると,過剰な情報伝達がバリアフリー状態で前頭皮質に届くことになる。一方,腹側被蓋野から側坐核に至るドパミン神経の過剰興奮は,側坐核のGABA神経機能を低下させる。以上が相まって,大脳前頭前野の機能異常が起こり,それらが統合失調症の各症状と密接に結びついている。
magnetic resonance spectroscopyによって,脳内のGABA濃度をin vivoでリアルタイムに測定できる。筆者らは前頭葉・左基底核・頭頂・後頭葉で,GABA濃度を初発統合失調症患者群と,性別・年齢を一致させた患者群で比較した。その結果,初発統合失調症群では左基底核のGABA濃度が有意に低下していた。その病態的な意義に関しては不明だが,統合失調症では基底核のGABA神経系が早期から障害される可能性がある。

【参考】

▼ 中村 純, 編:精神疾患のバイオマーカー. 星和書店, 2015.

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