検出技術の進歩によりDNA鑑定の精度は近年特に高くなっており,わが国の法医鑑識で用いられている15座位のマイクロサテライト(STR)の型を用いる方法では,平均何百京人に1人というきわめて低い数値で個人を識別できる。
その一方で,犯罪の巧妙化や鑑識におけるDNA鑑定の社会的認知の浸透によって,十分なDNAが抽出できる試料が犯行現場などに残らなくなり,試料が残されていても,被害者の血液などと混合している場合が増えてきた。このため,DNA型検査を行っても現場試料と被疑者のDNA型が異なるため,現場試料に被疑者のDNAが含まれているかは,条件付き確率の比(尤度比)を用いた数学的解釈によって判断されるようになってきた。
このような検査結果の数学的解釈(forensic mathematics:法数学)(文献1)の概念は,膨大な多型性を有するDNA検査の利用によって大きく発展した。現在の判定方法では,3人分のDNAが混合した場合でも,高い確度で被疑者の関与の有無を示すことができる。しかし,微量試料(DNA量200pg未満)ではPCRによる増幅が不十分で型が検出されない場合(ドロップアウト)があるため,その確率も考えた解釈を推奨する指針(文献2)も出ている。
冤罪の根拠となるような誤った鑑定方法や解釈を避けながら,現場試料から最大限の情報を得る努力が続けられている。
1) Forensic Mathematics.
[http://dna-view.com/]
2) Gill P, et al:Forensic Sci Int Genet. 2012;6(6):679-88.