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完全房室ブロック治療後の患者に対する運動制限はどうする?

No.4812 (2016年07月16日発行) P.63

後藤葉一 (国立循環器病研究センター心臓血管内科/ 循環器病リハビリテーション部部長)

登録日: 2016-07-16

最終更新日: 2016-10-29

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【Q】

完全房室ブロック(第3度房室ブロック)の治療後の患者に対する運動制限の可否,および内容(医学書では,明瞭な記載を見かけません)について,どのようにしたらよいでしょうか。エビデンスがあれば,ご教示下さい。 (岐阜県 K)

【A】

「完全房室ブロック治療後」は,「完全房室ブロックに対するペースメーカー植込み治療後」という意味と理解して回答します。
「完全房室ブロックに対するペースメーカー植込み治療後患者に対する運動制限の可否」については,(1)ペースメーカー植込み手術直後の時期と慢性安定期,(2)完全房室ブロックを生じた基礎心疾患の有無,(3)植え込まれたペースメーカーの種類,を考慮することが必要です。以下,それぞれについて説明します。
[1]ペースメーカー植込み手術直後と慢性安定期
ペースメーカー植込み手術直後の時期は,ペースメーカー電極の留置位置の脱落・移動(dislodge)の可能性や,手術創部の治癒が未完了であることから,国立循環器病研究センター心臓リハビリテーション部門では,(1)通常の歩行や自転車こぎの運動は植込み手術の4日後から可能,(2)激しい運動(ランニングなど)や最大運動負荷試験は植込み手術の2週間後から可能,(3)植込み側の肩関節の運動(上肢の挙上)は水平(肩の高さ)以下までは植込み手術直後から可能,肩の高さ以上の挙上は植込み手術の1カ月後から可能,と以上のように対応しています。
慢性安定期には,以下に述べる運動制限を必要とする基礎心疾患がある場合を除いて,特別な制限は設けていません。ジョギングやテニスなどは健常人と変わらず可能です。
[2]完全房室ブロックを生じた基礎心疾患の有無
一般論として,完全房室ブロックが孤立性で特別な基礎心疾患がない場合は,ペースメーカー植込み後というだけの理由で運動制限を指示することにはなりません。一方,完全房室ブロックを生じた基礎心疾患が存在する場合は,その心疾患の重症度により運動制限が必要な場合があります。たとえば,基礎心疾患が心サルコイドーシスである場合は,軽い運動は許容されますが,強い運動の実施が心機能に対して安全・有益とのエビデンスはなく,積極的には推奨されません(ただし,厳格に禁止すべきとのエビデンスもありません)。
また,心機能低下(左室駆出率40%以下)や心不全を伴う場合は,歩行・体操など中強度以下の運動は許容されますが,高強度(最大運動能力の60%以上)の運動を習慣的に実施することは推奨されません。心不全の場合の運動療法については,ガイドライン(文献1)をご参照下さい。
[3]植え込まれたペースメーカーの種類
最近のペースメーカーは心拍反応(rate response)機能付きで,運動に伴いペーシングレートが増加し,心拍数が増加するタイプ(DDDRなど)が多くなっています。しかし,固定レート(VVI)型ペースメーカーでは運動に伴い心拍数が増加しないため,急に激しい運動をすると心拍出量の増加が不十分となり,低血圧・めまい・息切れなどの症状が出現する可能性がありますから,突然の全力疾走などは避けることが望ましいと考えられます。
また,rate response型のうち加速度センサー方式では,歩行運動など加速度変化を生じる運動では心拍数が増加しますが,自転車エルゴメーター運動など加速度変化を伴わない運動の場合には心拍数が増加しないため,同様の注意が必要です。

【文献】


1) 日本循環器学会, 他:心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン(2012年改訂版).
[http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2012_nohara_h.pdf]

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