甲状腺癌では手術療法や放射線ヨウ素による内照射が確立された標準的治療法となっているが,再発腫瘍に対して放射線ヨウ素の効果がみられない場合には,奏効する化学療法がなく,治療は困難であった。しかし,昨今の分子生物学の発展により,甲状腺癌にも適応を有する分子標的治療薬が登場した。分化型甲状腺癌に適応を有するソラフェニブ,髄様癌・未分化癌を含む甲状腺癌に対する適応を有するレンバチニブ,髄様癌に適応を有するバンデタニブがあるが,いずれも根治切除不能であることや,放射線ヨウ素に不応であることなどが条件として挙げられている。
レンバチニブを例にとると,国際共同第3相試験(SELECT試験)において,放射線ヨウ素抵抗性・難治性分化型甲状腺癌において,無増悪生存期間の延長や高い奏効率を示している。さらに,国内第2相試験(208試験)では,切除不能な甲状腺髄様癌・未分化癌を含む症例においても安全性や有効性が評価されており,今後の臨床での活躍が期待される薬剤であると思われる。
一方で,特有な副作用(レンバチニブでは高血圧,蛋白尿や食欲減退など)も存在するため,それらへの対処や予防には知識や経験が必要であり,十分注意して使用するべきものである。また,これらの薬剤は症例ごとの使いわけもいまだ決まっておらず,適切な治療方法が確立されるまでには時間を要すると思われる。