(質問者:兵庫県 K)
一酸化炭素ヘモグロビンの死後産生は,死体に腐敗が生じるとともに起こります。ただし,すべての死体で産生されるわけではなく,過去の報告例1)~3)では,腐敗した溺死体で検出されることが多いようです。腐敗が生じていない死体や,陸上で腐敗した死体では,まず産生されません。水温が低すぎると溺死体から一酸化炭素ヘモグロビンは検出されず,少なくとも8℃以上の水温が必要なようです。環境の酸素分圧との関係については報告されていません。
連鎖球菌やプロテウス属の細菌が腐敗に伴って溺死体に繁殖すると,それらのヘムオキシゲナーゼの作用で,ヘム化合物(ヘモグロビン,ミオグロビンおよびそれらの腐敗産物)のヘムが開裂して一酸化炭素が生じます(図1)3)。産生した一酸化炭素は,死体内に残存しているヘモグロビンやその腐敗産物と結合し,分光光度計やガスクロマトグラフを用いる一酸化炭素ヘモグロビン検査法で検出することができます。
溺死体が腐敗すると血液が徐々に拡散し減少するため,胸腔内液(肺に吸い込んだ水が腐敗により胸腔内に滲出した,溶血液を含む暗赤色液)も採取して検体としていました。死後産生一酸化炭素ヘモグロビンは,血液からは10%未満しか検出されませんが,胸腔内液からは50%を超える濃度が検出されることもありました1)3)。
しかし,腐敗した溺死体から一酸化炭素ヘモグロビンを検出しても,一酸化炭素を生前に吸引したとは判定できないので,現在では検査していません。
【文献】
1) Kojima T, et al:Forensic Sci Int. 1982;19(3): 243-8.
2) Kojima T, et al:Forensic Sci Int. 1983;22(2-3):131-5.
3) Shigezane J:Nihon Hoigaku Zasshi. 1986;40 (2):111-8.
【回答者】
赤根 敦 関西医科大学法医学講座教授