【司会】木村健二郎(独立行政法人地域医療機能推進機構 東京高輪病院院長)
【演者】内田俊也(帝京大学内科学教授)
高尿酸血症は慢性腎臓病(chronic kidney disease:CKD)の進行因子となる。尿酸管理目標値は6.5mg/dL未満に
CKD進行抑制には,多くの因子に介入するトータルケアを必要とする
抗利尿ホルモン不適合分泌症候群(syndrome of inappropriate secretion of antidiuretic hormone:SIADH)に伴う低尿酸血症はV1a刺激による尿酸トランスポーターの変化による
ヒトには1個の腎臓に100万本のネフロンがあるとされています。糸球体では糸球体濾液がつくられ,その中に老廃物を出す大変重要な働きを,腎臓が担っています。
ところが,ネフロンの数が減ると,代償機転としてレニン-アンジオテンシン系が賦活され,アンジオテンシンⅡが輸出細動脈を輸入細動脈よりもより強く収縮させます。そうすると,輸入と輸出の圧の関係で,糸球体内圧が高まります。この糸球体高血圧が長期間続くと,糸球体が機能しなくなってしまい,ネフロンの数がさらに減ることになります。これが35年前に提唱された糸球体過剰濾過仮説です。
それから十数年下り,もともと腎臓病の単なる指標にすぎなかった尿蛋白が,実は腎臓に対して害を及ぼすことが発見されました。尿蛋白が出ると,腎障害に進行して悪循環が形成されます。それからさらに十数年下り,腎臓が悪化した結果としての腎性貧血が生じ,それがさらに原因となって腎臓に害を及ぼすことが明らかにされました。原因と結果が両方関係するということで発見されたのが,CKD分野における進展メカニズムと言えるかと思います。
透析導入の原疾患である糖尿病性腎症,糸球体腎炎,高血圧などは,ネフロンの数が減るという形では関係しませんが,このメカニズムの途中に入り込む形で,最終的に腎の廃絶に至らしめることは間違いありません。
高尿酸血症は様々なメカニズムの関与が考えられますが,ネフロンの数が減って糸球体濾液量が減れば,当然その中に濾過される尿酸が減り,高尿酸血症になると思われます。また,虚血は細胞内に乳酸をつくります。乳酸と尿酸は,逆に働く道筋がありますから,それだけでも尿酸値は上昇します。腎臓が悪化したら高尿酸血症となり,高尿酸の結果,輸入細動脈に影響を及ぼすことが最近わかってきましたので,尿酸が関係するのは想像に難くないと思います(図1)。
新規透析導入患者の原疾患は1998年に1位と2位の糖尿病性腎症と糸球体腎炎が逆転しました。腎炎は減っています。原因ははっきりしていませんが,環境の清潔化と,IgA腎症に対するステロイドパルス療法の効果,それに免疫抑制薬の開発と,適切な治療ができるようになったことも関係があるように思います。同様のことが糖尿病性腎症でも見られ,頭打ちということは,喜ばしいことと思います。ただ,3位の腎硬化症は高血圧,動脈硬化症を起因としているためどんどん増えていて,いずれ2位と3位は逆転するでしょう。また,遺伝性疾患である多発性囊胞腎による透析導入は,年間1000人程度あるようです。
尿酸は昔,痛風腎という概念で学びましたが,現在,痛風腎という診断で新規透析導入を受けている患者数がどのくらいか想像がつきますでしょうか。実は100人もいないのです。尿酸が痛風腎だけではなく,それ以外の生活習慣病と密接な関わりを持って関与するであろうということは,想像に難くありません。原疾患としての糖尿病や高血圧などに密接に関わってきて,最終的には腎臓病,透析導入に至ることは十分に考えられるため,尿酸の役割を過小評価はできないと思います。
図2に高尿酸血症とメタボリックシンドロームのメカニズムを示しました。上流に内臓肥満症があって,下流にインスリン抵抗性があります。実は高尿酸血症も生活習慣病と同様,インスリンとの関わりで説明できる部分があります。
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