顔面の先天性疾患や陳旧性外傷などでは修正手術後,経年変化により再度同様の手術を必要とされる症例が少なからずある。このような症例に対して,初回手術で生じた余剰な自家組織をバンキングし,必要なときに再生することで本人に再利用することは患者の負担を軽減させる。
そこで当科では,再生医療モデルとして手術が複数回施行される口唇裂・口蓋裂に焦点を絞り研究を進めてきた。すなわち,初回手術時に余剰となった骨組織を培養し,得られた間葉系細胞を凍結保存する。そして再度,骨移植手術が必要となったときに,その凍結保存した細胞を使って再生骨を作製し,本人に還元する方法である。骨組織由来間葉系細胞は10年以上凍結保存してもその骨形成能が維持され,骨芽細胞以外に脂肪細胞にも分化しうること,自己血清培地はもちろん,無血清培地でも培養・増殖・凍結が可能であること,などが明らかになった。また,骨組織の供給源は,一般に骨移植手術に用いられる腸骨でなくても,上顎骨や下顎骨などの顔面骨でも可能であった。なお,凍結保存間葉系細胞を臨床応用するためには,それぞれの検体ごとに安全性の確認が必要であるが,移植前検査として染色体の形態学的検索,CGH法による遺伝子検索,腫瘍化過程に出現するテロメアーゼ活性,hTERT遺伝子発現などの検索が必要であることなどがわかっている。
形成外科診療において,凍結保存自家組織由来間葉系細胞は,骨組織以外にも応用可能な再生医療技術である。
【解説】
1)山崎安晴,2)武田 啓 北里大学形成外科・美容外科 1)診療准教授 2)主任教授