(質問者:秋田県 H)
(1)消防士,救急救命士の法的地位
本問の趣旨から,消防士は,消防法にかかる市町村の消防本部に勤務する消防職員のうち,総務省消防庁の定める消防吏員の階級基準第1条に規定された階級にある者であることを前提としてお答えします。
また,救急救命士は救急救命士法第2条で「厚生労働大臣の免許を受けて,医師の指示の下に,救急救命処置を行うことを業とする者」とされ,全国の地方公共団体消防本部救急隊の救急車に,常時最低1名乗車させることが目標とされています。
(2)公務員の守秘義務と行政情報の公開原則
国家公務員法第100条第1項の「職務上知り得た秘密」における「秘密」は,非公知の事項であって,実質的にもそれを秘密として保護するに値すると認められるものを言い,国家機関が単にある事項につき形式的に秘扱の指定をしただけでは足りないと解されています(最高裁昭和52年12月19日決定)。地方公務員法第34条の「秘密」も同旨と解されます。これらの守秘義務は,職務の服務規律を保持するためのものです。
他方,国の行政機関においては,その保有する行政文書〔単なる紙媒体のものにとどまらず,電磁的記録(電子データ)を含みます〕について,「行政機関の保有する情報の公開に関する法律」(行政機関情報公開法)があり,行政文書は,非公開条項に該当しない限り,原則公開とされています。地方公共団体においても,情報公開条例に基づき,団体として保有する文書(電子データを含む)は原則公開とされています。本問では,消防士や救急救命士が現場の状況をテレビで話しているだけですので,直ちに行政文書の公開について行政機関情報公開法や情報公開条例の対象となるわけではありませんが,本問のような公務員の守秘義務との関係においては参考になります。そこでは,非公開条項は,情報の「公開原則」の例外として公開しない情報の範囲を定めたものであり,守秘義務は職員の服務規律を保持するためのものであって,両者はその目的を異にしています。しかし,実際には,形式秘の指定を受け,非公開条項にも該当し,かつ実質秘とも言える情報が「職務上知り得た秘密」に該当すると考えられます。非公開条項に該当しない場合であれば「職務上知り得た秘密」に当たり公開されないという扱いはないと言えるでしょう。
本問の場合,消防士や救急救命士が現場の状況をテレビで話しているとしても,その内容が,個人情報(行政機関情報公開法第5条第1号),法人情報(同2号),犯罪の捜査等情報(同第4号),行政運営情報(同第6号)などで特に非公開としなければならないもの以外は,話すことは可能ですし,この場合は,特に「職務上知り得た秘密」に該当するものではありません。
ただし,個人情報の保護に関する法律や個人情報保護条例との関係で,さらに検討すべきことがあります。
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