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介護保険法等改正案への3つの疑問 [深層を読む・真相を解く(61)]

No.4845 (2017年03月04日発行) P.20

二木 立 (日本福祉大学学長)

登録日: 2017-03-03

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  • 安倍内閣は2月7日、「地域包括ケアシステムの強化のための介護保険法等の一部を改正する法律案」を閣議決定し、厚生労働省は同日国会に提出しました。同省「法律案のポイント」によると、この法案は「高齢者の自立支援と要介護状態の重度化防止、地域共生社会の実現を図るとともに、制度の持続可能性を確保することに配慮し、サービスを必要とする方に必要なサービスが提供されるようにする」ことを目的とし、内容は「地域包括ケアシステムの深化・推進」と「介護保険制度の持続可能性の確保」の2本柱です。そのために、介護保険法の他、健康保険法、医療法、社会福祉法、老人福祉法、高齢者医療確保法等、多数の法律の改正を予定しています。

    本稿では紙数の制約のため、この法案の網羅的検討はせず、一般の報道では見落とされていると私が考えている以下の3点を複眼的に検討します。

    ①「地域包括ケアシステムの深化・推進」が謳われているが、高齢者に対象を限定している地域包括ケアシステムの法的定義は変えられない。②「自立支援・重度化防止」偏重で、高齢者の尊厳を保持する介護保険法の目的が無視されている。③「能力に応じた負担」のうち、高所得高齢者(現役並所得者)の自己負担3割化には3つの疑問がある。なお、今回の法改正の目玉の1つである「介護医療院」の創設については別途検討します。

    地域包括ケアの法的定義は変えられない

    今回の法案には「地域包括ケアシステムの強化」「深化・推進」のための条文改正や新しい施策が盛り込まれており、私は次の3つが特に重要であると思います。①介護保険法の「国及び地方公共団体の責務」に、介護サービスに関する施策等を推進するに当たっては「障害者その他の福祉に関する施策との有機的な連携を図るよう努めなければならない」との条文が付け加えられました(第五条第四項)。②それの具体化として、高齢者と障害児・者が同一事業所で居宅サービスを受けやすくするために、「共生型居宅サービス事業者等に関する特例」が設けられました。③「地域力強化検討会中間とりまとめ」(本連載で検討)に概ね沿った形で、社会福祉法が地域共生社会の実現に向けて改正され、市町村地域福祉計画の策定が法律上努力義務とされました(「中間とりまとめ」で提起された義務化は見送り)。

    ただし、高齢者に対象を限定した医療介護総合確保推進法(2014年)の地域包括ケアシステムの以下の定義は変えられません:「地域の実情に応じて、高齢者が、可能な限り、住み慣れた地域でその有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう、医療、介護、介護予防、住まい及び自立した日常生活の支援が包括的に確保される体制」(第二条)。それに対して全年齢を対象にしている「地域共生社会」の法的定義はなされていません。さらに、地域包括ケアシステムと地域共生社会との関係も不明なままです。

    その結果、現実の施策を進める際には自治体の担当者や事業者の間に混乱が生じる危険があります。これは杞憂ではなく、「0歳から100歳までの地域包括ケア」を標榜している日本福祉大学の地域包括ケア研究会に対して、法令遵守を信念とするある市町村の介護保険法担当者から「この標語は、対象を高齢者に限定した地域包括ケアシステムの法規定と異なり、間違っている」との批判を最近受けました。

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