インフルエンザの診断は医師の臨床診断が中核となる。迅速抗原検査の結果が臨床診断と解離した場合にどのように考察するか,知っておく必要がある
迅速診断検査の感度・特異度はともに100%ではない。したがって,臨床診断でインフルエンザである蓋然性を勘案した上で,結果が真陽性,偽陽性,真陰性,偽陰性のいずれであるかを推察する
臨床像と迅速診断検査の結果により,「同様の患者が100名いた場合,そのうち何名がインフルエンザであるか」と診断確率に変換して考えることができる
想定される診断確率が低くとも,真の罹患である場合の健康被害が重度であり,治療によるメリットが期待できる場合には,抗ウイルス薬により積極的な治療を行うことも必要である
インフルエンザウイルス感染症(以下,インフルエンザ)の診断は臨床症状に基づくことが前提である。迅速診断検査(rapid influenza diagnostic test:RIDT)は規格にかかわらず,感度・特異度(後述)は100%ではない。したがって,検査結果が陰性であった場合もインフルエンザを否定できないため,個々の患者病像を勘案した診断や治療の意思決定が必要となる。本稿ではRIDTが陰性であった場合の診断確定度の考え方について紹介し,最後に治療に関する臨床的意思決定について簡潔に述べる。
インフルエンザを疑う種々の臨床徴候と,各徴候の診断特性(感度,特異度,尤度比)を表1に示す。「発熱+咳嗽+急性発症」を認める場合のインフルエンザである蓋然性(陽性尤度)は2.0である。尤度比(オッズ)が1.0ということはインフルエンザである確率と,そうでない確率が50%であるということを意味する。したがって,オッズ比を「オッズ比+1」で除した値(0.5=50%)が診断確率である。表1に示す筋肉痛の陽性尤度比(筋肉痛を認めるときのインフルエンザである蓋然性)と陰性尤度比(筋肉痛を認めないときのインフルエンザである蓋然性)は0.93と1.2であり,ともに1に近い1)。つまり,筋肉痛の有無を問診で確認しても,インフルエンザの肯定あるいは除外のいずれにもあまり有用ではないことになる。
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