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(11)  脳血管内科学[特集:臨床医学の展望]

No.4740 (2015年02月28日発行) P.61

松本昌泰 (広島大学大学院脳神経内科学教授)

祢津智久 (広島大学大学院脳神経内科学)

細見直永 (広島大学大学院脳神経内科学診療准教授)

登録日: 2016-09-01

最終更新日: 2017-04-10

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  • ■脳血管内科学の現況と課題

    脳血管障害は日本人の死亡原因の第4位であり,何よりも「寝たきり」の最大原因であることから脳血管障害の予防,治療法の確立がきわめて重要である。脳梗塞超急性期の治療に関しては,2005年に日本でrt-PA静注療法が認可され10年が経過しようとしている。この10年間で治療可能時間が発症3時間以内から4.5時間以内へと延長され,血管内治療に関しても様々なデバイスが続々と登場し,一部の症例では発症8時間以内で治療可能である。しかし,こうしたrt-PA静注療法や血管内治療は時間的制約が依然として残り,すべての地域住民が脳梗塞急性期治療の恩恵を得ることができるようにするためには,一般住民への啓発,救急隊との前方連携,ドクターヘリの活用などが必要である。また,回復期リハビリテーション病院やかかりつけ医との緊密な後方連携も重要である。
    脳血管障害の発症予防や再発予防に関しては近年劇的に進歩しており,特に心原性脳塞栓症の予防としてワルファリンしか治療選択肢がなかった経口抗凝固薬に2011年から直接トロンビン阻害薬,Ⅹa因子阻害薬が相次いで登場し注目を浴びている。今後その使用実態調査,リアルワールドでの臨床効果の検証が必要である。
    高血圧性脳出血に関しては急性期の内科的治療は降圧療法が中心となるが,その目標血圧は明らかでなく,積極的降圧療法の有効性を検証するための国際共同研究が現在行われており,日本も参加している。脳出血罹患率が欧米に比べると日本を含めた東南アジア人に多いことから,前述した抗凝固療法の一部では日本独自の用量設定が行われており,rt-PA静注療法に関しても欧米よりも低用量で有効性,安全性を示してきた。脳血管障害の制圧に向けて,国際共同研究に参画するとともに日本独自のエビデンスを世界に発信していくことも非常に重要である。また,2015年には脳卒中治療ガイドラインが6年ぶりに改訂され発表される予定であり,注目したい。

    TOPIC 1

    脳梗塞急性期治療

    (1)rt-PA療法

    2005年に日本で発症3時間以内のrt-PA療法が認可され,脳梗塞急性期治療における診療体制が劇的に変化した。2012年には治療適応時間が4.5時間以内に延長され,後述する血管内治療などの新知見もふまえ,「rt-PA(アルテプラーゼ)静注療法適正治療指針」が第二版に改訂された。
    欧米の用量(0.9mg/kg)に比べ低用量(0.6mg/kg)で設定された日本のrt-PA静注療法であったが,その有効性,安全性は欧米と遜色ないことが臨床試験だけでなく市販後調査でも証明され1),脳出血の罹患率が高い東南アジア人では低用量が推奨されるのではないか世界からも注目されている。
    治療適応時間は発症4.5時間以内に延長したものの発症時間不明の脳梗塞にrt-PA療法が使用できないかMRI画像を用いて患者選択を行うExtending the time for Thrombolysis in Emergency Neurological Deficits(EXTEND)試験が国際的には開始され,国内ではTHrombolysis for Acute Wake-up and unclear-onset Strokes with alteplase at 0.6 mg/kg(THAWS)試験が企画されている。

    (2)血管内治療

    血管内治療もここ数年で大きな進歩を遂げ,2010年にMerciリトリーバー,2011年にはPenumbraシステムのデバイスが発症8時間以内のrt-PA静注療法無効例もしくは適応外症例で日本でも認められた。
    一方で,国際的にはrt-PA静注療法に血管内治療追加の有効性を検討したInterventional Management of Stroke Ⅲ(IMS-Ⅲ)試験,画像診断をもとに患者を選択し血管内治療の有効性を検討したMechanical Retrieval and Recanalization of Stroke Clots Using Embolectomy(MR RESCUE)試験,rt-PA静注療法と血管内治療を比較したIntra-arterial Versus Systemic Thrombolysis for Acute Ischemic Stroke(SYNTHESIS-Expansion)試験が2013年初頭に相次いで発表されたがいずれも血管内治療の有効性が証明されず,発表の場がホノルル(International Stroke Conference 2013)であったことから「ホノルルショック」と呼ばれた。しかし,この3つのランダム化比較試験はそれぞれ患者選択基準,血管内治療開始までの時間,再開通率の低さなどの問題点を含んでおり,血管内治療が否定されることにはならない。
    次世代の血管内治療デバイスであるステントリトリーバー(Solitaireデバイス,Trevoデバイス)がMerciリトリーバーと比べて閉塞血管の再開通率が高く,転帰良好の症例も多いことが2012年に報告され,rt-PA静注療法にSolitaireデバイスによる血管内治療追加の有効性を検証する国際的なランダム化比較試験(SolitaireTM FR as Primary Treatment for Acute Ischemic Stroke:SWIFT PRIME)試験が2013年から開始されている。国内でも一部のステントレトリーバーが2013年末から2014年にかけて承認され,rt-PA療法に血管内治療を追加するランダム化比較試験(Recovery by Endovascular Salvage for Cerebral Ultra-acute Embolism-Japan:RESCUE-Japan RCT)も企画されている。

    (3)新世代静脈血栓溶解薬

    血管内治療には脳血管内治療医の育成,手技の向上が必要であるが,すべての施設で施行可能となるにはハードルが高く,簡便に投与可能である新世代静注血栓溶解薬(デスモテプラーゼやテネクテプラーゼ)の臨床応用も期待される。
    デスモテプラーゼはコウモリの唾液に由来する血栓溶解薬であり,フィブリンとの親和性が高く,出血の合併症が少ないことから期待されていたが,2009年に発表された第Ⅲ相試験Desmoteplase In Acute Ischemic Stroke 2(DIAS-2)では有効性が証明されなかった。この主たる原因は,患者選択基準として使用される放射線画像診断の標準化がなされていないこと,主幹動脈に閉塞のない患者も選択されていたことなどが挙げられ,患者選択基準を変更したプロトコールでDIAS-3,DIAS-4が現在欧米で実施されている。なお,日本でも安全性を評価するために低用量と標準用量を比較するDesmoteplase in Acute Ischemic Stroke Japan(DIAS-J)が行われ,プラセボ群と比べて両群ともに出血の合併症が増えなかったことが2014年に発表された。
    テネクテプラーゼもフィブリン親和性が高く,半減期も長いことからボーラス投与のみで効果が期待できる。従来のrt-PA療法(アルテプラーゼ)と比較し臨床転帰が改善することが2012年に第Ⅱb相試験で示され2),現在第Ⅲ相試験が企画されている(Tenecteplase versus Alteplase for Stroke Thrombolysis Evaluation:TASTE)。

    【文献】
    1) Nakagawara J, et al:Stroke. 2010;41(9):1984-9.
    2) Parsons M, et al:N Engl J Med. 2012;366(12): 1099-107.
    (祢津智久 細見直永)

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