不眠症治療においては,不眠症患者の日中のQOLを改善することが目標となる。
不眠症に対する非薬物療法として,認知行動療法(cognitive behavioral therapy for insomnia:CBT-I)がある。
CBT-Iは睡眠衛生指導,行動療法,認知療法などの複数の技法を組み合わせて用いられる。
不眠症とは,適切な時間帯に眠る時間が確保されているものの,毎晩,実際にとっている睡眠時間の長短にかかわらず,患者自身が睡眠に対する不足感を訴え,身体的・精神的・社会的に支障がある状態をいう。つまり,不眠症は主観的な体験であり,症状があっても本人がそれに苦痛を感じていなければ不眠症とは評価されない。逆に,客観的には十分眠れていても,本人がその睡眠状態を不満に感じていれば不眠症と評価される。また,不眠症とは夜間の睡眠困難のみならず,その結果日中の生活に何らかの障害がもたらされることと定義されている。そのため,不眠症治療においては不眠症患者の日中のQOLを改善することが目標となる。
不眠症の治療として最も一般的なものは薬物療法であるが,睡眠薬治療が有効である例は約5割にとどまっており,不眠症患者の多くはその服用が長期化している。このような現状から,現在注目されている非薬物治療法が「不眠症向けの認知行動療法(cognitive behavioral therapy for insomnia:CBT-I)」である。CBT-Iとは,不眠症の生起,維持と関連する心理的問題を解決することにより,不眠症の治療を行う非薬物治療である。
欧米ではすでに,不眠症に対する認知行動療法の有用性を指摘する報告が多数みられ,わが国では2010年4月に,うつ病に対する認知行動療法が保険適用になっている。しかし,原発性不眠症(精神生理性不眠,睡眠状態誤認)に対する保険適用はまだ認められていない。不眠症に対する改善効果の報告も多く,今後,保険適用が承認されるようCBT-Iの認知度を高めていく必要がある。また,CBT-Iは,睡眠薬を使用しても症状が改善しない慢性不眠症患者や,睡眠薬の減量・中止を図る方法として有効な治療法であり,薬物治療とCBT-Iを併用することで服薬量を減量しても不眠症状は改善することが期待されている。
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