75歳の男性。高血圧で診療所に通院中。ある日の外来で「寝付きが悪いので眠り薬が欲しい」との希望があった。もともと自営業(酒店)を営んでいたが,現在は長男に譲り,店には出ていない。妻・長男夫婦・孫2人と同居しているが,日中は妻と2人で過ごし外出もほとんどしない。
患者が不眠を訴えた際には,「なかなか寝付けない」(入眠困難),「夜中,目が覚めて眠れなくなる」(中途覚醒・睡眠維持困難),「朝早く目覚めてしまう」(早期覚醒),「寝ているが朝すっきりしない」(休息感・回復感の欠如)「ぐっすり眠れない」(熟眠障害)という睡眠障害のうち,どの概念に当てはまるかを,まず医学的に分類することが必要である1)。この患者は入眠困難であると考えられた。
次に,うつ病あるいはうつ状態で不眠が前景に立つ可能性や,睡眠時無呼吸症候群も念頭に置いた。最も留意したことは,不眠の訴えは他の症候以上に主観的で,特に高齢者では生理的と考えられる睡眠時間の短縮を不眠と訴えている場合があるので,安易に睡眠導入剤を処方することがないよう慎重に対処すべきことであった。
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