パーソナリティ障害(personality disorders)(DSM-Ⅳ)とは,ある特定の文化において,平均的な人間の認知,感情,そして他と関わる仕方から著しく偏っており,対人関係機能,衝動の制御能力,ストレス耐性が低い人物像をさす。周囲との調和,適応性,内面的な安定性が壊れ,外見的には変人,奇人,情緒不安定,トラブルメーカーといった行動特性を持っている。内面的には不安,葛藤に基づく疎外感,役立たずの感(劣等感),空虚感といった心性に毒されているのが一般的である1)。これらの行動様式は,他の精神疾患の表れや結果ではなく,状況によって変化するものでもなく長期間持続しており,社会的ないしは職業的生活に重大な支障をきたしている。
パーソナリティ障害を,先天的要因(遺伝子その他の生物学的要因)と後天的要因(発達的ないしは環境的要因)が複雑に絡み合った状態と考えることは一般化しているが,各要因がそれぞれどの程度に役割を果たしているかは,個々の症例により違いも大きいと思われる。米国の操作的診断基準であるDSM-Ⅳ-TRでは,大きくA群(妄想性人格障害,分裂病質人格障害など),B群(境界性人格障害,反社会性人格障害,自己愛性人格障害など),C群(回避性人格障害,強迫性人格障害など)に分類されている2)。
最も重要となるのは,患者本人に「自分の人格的,性格的な問題である」ということを,少しずつでも自覚してもらうことである。そして過去の原因追究をするのではなく,ストレス対処の仕方など,現在できることを話し合っていく。薬物療法は補助的に対症療法として気分安定薬や非定型抗精神病薬などを用いることもあるが,根本治療ではないため,不用意に種類や用量を増やさないことが大切である。特にベンゾジアゼピン(BZ)系薬剤は脱抑制を起こし衝動性や攻撃性を悪化させ,また依存性形成や乱用の危険性があるため,境界性人格障害患者には使用を控えたほうが望ましい。このように,パーソナリティ障害の治療は精神療法が主体となり,長期間を要するのが一般的である。
●文献
1) 樋口輝彦,他編:今日の精神疾患治療指針. 医学書院, 2012, p206-17.
2) 高橋三郎,他訳:DSM-Ⅳ-TR 精神疾患の分類と診断の手引. 医学書院, p233-42.