加齢性難聴は,少なくとも部分的には抗酸化反応に起因しているものと考えられ,酸化ストレスにより神経細胞は細胞死を引き起こす。細胞傷害に対する防御反応とどのように関係しているか(メニエール病や加齢性難聴など)を研究するために,ヒト側頭骨における抗酸化物質の免疫組織学的染色により,その変化を調べている1)。
脊椎動物の神経細胞に特異的に発現するニューログロビン(Ngb)は,組織障害を引き起こす抗酸化反応から,生体を守る作用と深く関係していると言われている。Ngbは,ヒトの蝸牛においてコルチ器の有毛細胞とその支持組織,らせん神経節に局在しており,内耳正常群と難聴群との局在の比較では,難聴群の全蝸牛回転においてNgbが減少していた2)。
同様に,抗酸化反応物質nuclear factor erythroid 2-related factor 2(Nrf2)に関しても,コルチ器の有毛細胞とその支持組織,らせん神経節に局在しており,年齢が70歳以上群と70歳未満群との局在の比較では,70歳以上群の全蝸牛回転においてNrf2は減少していた。
NgbやNrf2は,抗酸化反応による組織障害を防御すると考えられ,ヒト蝸牛において,加齢性難聴や内耳恒常性維持に重要な役割を果たしているものと考えられる。
【文献】
1) Lopez IA, et al:Histochem Cell Biol. 2016;146 (4):367-87.
2) Vorasubin N, et al:Brain Res. 2016;1630:56-63.
【解説】
細川誠二*1,三澤 清*2 *1浜松医科大学耳鼻咽喉科・頭頸部外科准教授 *2同講師