二木先生の前著『地域包括ケアと地域医療連携』が重版を重ねているようです。その理由、よくわかります。先生の研究は、最近になるほど─つまり年を取られ(失礼!)経験を積まれていくほど─内容が充実しているからだと思います。そして、私から見ると、今回の『地域包括ケアと福祉改革』は、前著よりも確実に中身が濃く、迫力のある本になっているように思えます。
本書には、「私の行ってきた研究の視点と方法」という章があります。そこを読めば、政策的意味合いが明確な実証研究を心がけてこられた先生ご本人が、莫大な情報をしっかりと整理・蓄積され、いわゆる「人間ビッグデータ」となられていく過程がよくわかります。そして1985年に病院の医師から大学の研究者に転進されて以来30年超の情報が累積された二木先生の頭脳に、様々な出来事─日本は高医療費国? KPI(重要業績評価指標)、一億総活躍社会プラン、平成28年度診療報酬改定、混合介護、オプジーボ、保健医療2035等々の出来事─がインプットされて、論と証拠に基づきながら分析・予測・批判というアウトカムが自由自在に生産されているのですから、面白くかつ勉強にならないはずがありません。
本書に「2年前の2015年5月に日本社会福祉教育学校連盟の会長に選ばれたため、新たに政府・厚生労働省の福祉政策の分析や福祉教育改革の提言をまとめる機会が増え、研究の守備範囲も『医療』から『医療・福祉』へと拡大しました」とあるように、書名にある「福祉改革」は、新たな研究領域として含まれました。先生に福祉改革がインプットされるとどういう論考が生まれるのか─ソーシャルワーカーをはじめとした福祉の方々にも是非とも読んでいただきたい本となっています。
僕が昔から感心しているのは、医師出身である先生は、本書にも書かれているように社会科学の独習・研究を毎日2時間以上行うことを日課として何十年間も続けられていたということです。この生活習慣の力が、本書の随所に見られる政治・経済への信頼できる論に現れているのだと思います。