タイトルからして興味深い。実は私は「有刀流」である。子どものころから剣道が大好きで、高校時代米国に留学(1967~68年:AFS)したときも竹刀を持参し、米国の友人達に剣道を披露した。ところが、長いWHOの海外勤務で剣道のことは頭の中からすっかり消えていた。
そうした中、「昭和の剣聖」と言われた持田盛二名人が、脂の乗り切った若い剣士に稽古をつけている衛星番組をマニラの自宅でたまたま観た。若い剣士が80歳近い名人を果敢に攻めるが、あたかもすべての動きが見透かされているようでまるで歯が立たない。名人の動きは悠然として無駄がない。高校時代、剣道はスポーツだと思っていたが、この番組のメッセージは明確で「剣道には『心』『技』『体』が重要だが、高齢者になれば『心』で行う」というものであった。私はこれに強く惹かれた。
5年前、63歳のとき、半世紀ぶりに東京中野の興武館で剣道を再開した。不思議なことに、稽古が始まると過ぎ去りし青春時代が戻ってくる。
ところが「心」は青春時代に戻っても、「体」は既に前期高齢者だ。肩や腰が悲鳴を上げ、特に膝には水が溜まり、せっかく再開した剣道を断念せざるをえないと思った。
こうした中、この『無刀流整形外科』の編著者であり、当時、独立行政法人地域医療機能推進機構(JCHO)東京新宿メディカルセンターに勤務していた柏口先生に診察を仰ぎ、ストレッチに筋トレを加味したリハビリを開始した。不思議なことに、半年も経つと痛みは消失した。現在も教えられた筋トレとストレッチを継続しているためか、40代の頃よりも体が柔らかくなったと感じている。
もちろん手術の適応になる疾患もいまだあると思われるが、ほとんどの疾患にメスは不要とのこと。これはまさに福音である。本書は整形外科医のみならず、一般の方にも一読を勧めたい。『無刀流整形外科』に「一本あり」。