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【日常診療ポイントガイド】成功率UPを目指せ!禁煙支援のコツ(最終回)[プライマリケア・マスターコース]
禁煙治療のフォローアップ

No.4689 (2014年03月08日発行) P.38

加藤正隆 (かとうクリニック院長)

登録日: 2014-03-08

最終更新日: 2017-09-11

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今週の場面

「禁煙治療中または治療終了後の再喫煙」
保険適用による禁煙治療では,「禁煙治療のための標準手順書」で定められた12週間の治療をすべて終了した患者は治療を途中で中断した患者よりも禁煙成功率が高い。しかし,様々な理由で治療を中断してしまう患者は多い。平成21年度中央社会保険医療協議会調査では,治療をすべて終了した患者の治療開始から12週後の禁煙率は78.5%,途中で治療を中断した患者のその時点での禁煙率は43.8%であった1)。さらに,禁煙治療の目標は生涯にわたる禁煙の継続であるが,同調査では治療開始1年後の禁煙率は29.7%まで低下していた1)。ニコチン依存症は再発率の高い慢性疾患と言われる所以である。
今回は,禁煙治療中および治療終了後の経過が順調でない場合の支援の実際について述べ,連載のまとめとさせて頂きたい。

「1本の喫煙」

・「1本の喫煙」は,タバコがそばにあるとき,喫煙者がそばにいるとき,飲酒したときなどに起きやすい。吸いたい衝動は,ストレスを感じたときなどの気分が悪いときに起こりやすいとされるが,誕生日や休日などの気分のよいときにも起きることがあるので注意が必要である2)。1本の喫煙により70~90%が3カ月後には再喫煙状態になるので,「1本だけ」という誘惑に負けないことの重要性はいくら強調してもしすぎることはない。

禁煙治療中の留意事項

 ・再診は原則として予約制にして,予約を過ぎても受診しない場合は速やかに患者に連絡を取り,受診が遅れている理由を確認し受診を促す。
・治療開始から4週間以内では,ニコチンパッチによる皮膚炎・不眠やバレニクリンによる嘔気・嘔吐,頭痛などの禁煙補助薬の副作用,ニコチン離脱症状の出現,うつなどの精神疾患の増悪の際に再喫煙や治療中断が起こりやすい。
・ 禁煙に踏み切れなかった患者には,理由を尋ねて,どのようにすれば禁煙を始めることができるかを一緒に考える。
・一見すると,禁煙治療が順調に経過しているようにみえるときも注意が必要である。患者が禁煙成功を過信して,自己判断で禁煙補助薬を減量したり中止したりすることはよく経験される。その際に一時的に高まった喫煙欲求に耐えられず喫煙してしまうことがあるので,薬剤の用量遵守とアドヒアランスを良好に維持するように伝えておくことは大切である。

【症例】バレニクリンによる嘔気のため治療を中断した患者へのアプローチ


■支援のコツ
・バレニクリン処方時に,「空腹時に嘔気が起きやすいので,食後に200mL以上の水と一緒に服薬すること,食後以外に服薬する場合は何か食べてから服薬すること,制吐剤を服薬すると嘔気の軽減が期待されること」を十分に説明し,リーフレットを手渡しておくが,それでも嘔気のため服薬を中止する患者は少なくない。制吐剤の併用やバレニクリンの減量で服薬継続が可能になる場合もあるが,再度の服用を拒む患者も多い。

・保険適用による12週間の治療期間中は,禁煙補助薬の変更が可能なので,服薬継続が難しい場合は,ニコチンパッチへの切り替えを検討する。


■Adviceの例
・「残念ながら,飲み薬は吐き気が強くて続けることが難しかったのですね。吐き気止めを増やしたり,薬の量を減らしたりして薬を続けることができる場合も多いので,一度試してみませんか。

どうしても飲み薬は続ける気になれないようでしたら,貼り薬に切り替えて治療を続けるのはどうでしょうか。薬を使い続けた方と途中で止めた方では禁煙率に大きな差があります。実は,途中から薬を変えて禁煙に成功した方も多いのですよ」

【症例】ニコチン離脱症状に耐えられない患者へのアプローチ


■支援のコツ
・ ニコチンパッチまたはバレニクリン単独で治療を開始してもニコチン離脱症状が強いため再喫煙してしまう場合には,急に起きる喫煙欲求への対応策としてニコチンガムの併用が有効な場合がある。ニコチンガムのかみ方にはコツがあるので,十分な説明(表1)が必要である3)

・ 薬剤添付文書では禁煙補助薬の併用は禁じられており,医師の裁量による併用であることを明確にせねばならない。当院では普段から薬剤師との円滑な地域連携を心がけ,薬剤師と共同で作成した「医師の裁量による禁煙補助薬の併用を示すカード」を患者から連携薬局に提示してもらっている。
・ニコチン過量とニコチンガム依存症への注意喚起も必要である。

■Adviceの例
・ 「ニコチンパッチだけでは急に吸いたくなる衝動を我慢するのが難しいのですね。それでは,どうしても吸いたくて我慢が難しいときにはニコチンガムを一緒に使ってみるのはどうですか。

薬局で購入してもらうようになるのですが,ニコチンパッチを使っている場合はニコチンガムとの併用が添付文書では禁止されているので,万が一売ってもらえないと困りますね。このカードをお渡ししますので,医師の管理の下で併用することを伝えて購入して下さい。

ニコチンガムは普通のチューインガムとは使用方法が違います。かみ続けて唾液を飲み込んでしまうと吐き気を催すことがあります。10~15回ほどかんだら苦くなるので,歯茎と頰の間にとっておきましょう。味が薄れて吸いたい気持ちが出てきたら,また取り出してきてかんで下さいね。

 また,多く使いすぎるとニコチンガム依存症になることもあるので,使用個数は指示された数を超えないよう気をつけて下さい」

【症例】禁煙に踏み切れない患者へのアプローチ


■支援のコツ
・ 禁煙という未知の世界への漠然とした不安のため,「意志が弱いので禁煙ができない」とか,「ストレスが増えそう」ということを理由にして禁煙に踏み切れない患者は多い。

・ いつでも相談可能であることを明らかにし,意志の力の問題だけではなくニコチン依存症が禁煙困難な理由であること,ストレスには対処方法があること,禁煙できればむしろストレスが減ることを説明する。


■Adviceの例
・「禁煙を始める前は,禁煙するとどんな変化が起きるのかと皆さん不安に感じています。しかしこれまでの私たちの経験では,禁煙できて後悔した方は一人もいません。思い切って一歩踏み出してみませんか。困ったことが起きた時はすぐ私たちに相談して下さいね。禁煙は意志の力の問題だけではなく,ニコチン中毒になっているので難しいのです。禁煙したいという今の強い気持ちを大切にしながら,一緒に共同作業として取り組んでいきましょう。

 ストレスへの対処方法を一緒に考えて,できそうなことを自分で決めて実行しましょう。1カ月もするとストレスが軽くなってくることが期待できます。禁煙した方の中では,『次のタバコを吸わなければ我慢できない』『十分にタバコを持っていないと不安』『安心して吸える場所が確認できないと不安』などのストレスから解放されて楽になったと言う方が多いのですよ」

【症例】体重増加で治療継続意欲を喪失した患者へのアプローチ


■支援のコツ
・体重増加は禁煙治療の経過中にしばしば経験される。ニコチン離脱症状としての食欲増加,味覚改善や禁煙に伴う口寂しさに対する代償的食事摂取量の増加,胃粘膜微小循環系血行障害の改善などが原因と考えられる。特に女性では治療からの脱落要因になりやすいので注意する。

・ 禁煙による体重増加は喫煙により無理に体重減少していた状態からの復帰であること,禁煙して食欲が進むのは健康的であること,体重増加による健康リスクは喫煙によるリスクよりはるかに小さいこと,脂肪が増えても内臓脂肪増加は多くないので動脈硬化は進みにくいことなどを説明し,本来の自分の体重に戻るとの認識を促し肯定的にとらえてもらう4)。禁煙補助薬を継続することで体重増加が遅延することも治療継続の動機づけとなる。
・ 従来は,禁煙が優先なので体重に関する介入は禁煙が安定してからと考えられていたが,早期からの介入が望ましいとの報告もある。


■Adviceの例
・ 「禁煙すると味がよくわかって食欲が出て,消化吸収がよくなり,体に瑞々しさが蘇り体重が少し増えることがあります。タバコを吸っていた時の体は『燻製の魚』のように瑞々しさを失っていたと考えると理解しやすいですよね。

 禁煙して体重が増えても,内臓脂肪が増えることは多くないので,動脈硬化への影響はほとんどありません。また,禁煙の薬を使い続けると体重が増えるのを抑えてくれますから,最後まで忘れずしっかり薬を続けましょう」

禁煙補助薬の長期投与

・わが国では保険適用による禁煙補助薬の投与期間は12週間までに制限されているが,海外では「再喫煙防止のためにバレニクリンの延長投与が有効」との報告5)や,「再喫煙防止のために長期間ニコチン製剤が使用できる」とのガイドライン6)が発表されており,保険適用外でも投与延長を望む患者には考慮されるべきである。さらに,必要に応じて禁煙補助薬の投与期間を延長できるよう,保険適用要件の緩和が望まれる。

禁煙治療終了後のフォローアップ

・当院では,スタッフがチーム医療の一環として,治療終了後1年間は1カ月ごとに,その後は1年ごとに携帯メール,Eメール,電話などで禁煙状況を確認するよう努めている。禁煙が継続できていればその努力を称えているが,禁煙治療開始から1年後の禁煙率は全治療者中50~60%となっている。

【症例】禁煙治療終了後6カ月で再喫煙した患者へのアプローチ


■支援のコツ
・ 再喫煙状況を明らかにし,防止対策を十分に話し合う。希望があれば直ちに,保険適用希望なら前回治療開始日から1年経過後に再治療を勧める。

■Adviceの例
・「6カ月間禁煙を続けていたのは素晴らしいですね。禁煙中の体調はどうですか。残念ながら1本吸ってしまったら,次のタバコが吸いたくなってしまったのですね。今回はお酒の席でつい1本吸ってしまったのがきっかけでしたか。お酒の席での対処方法も改めて一緒に考えながら,今からもう一度禁煙に挑戦しませんか。

 もし,健康保険での治療が希望でしたら,治療開始は前回の治療開始日の1年後以降になりますので,また連絡しますね」

患者も医療者も絶対に諦めないで

・ニコチンガム発売以来,禁煙外来を本格的に始めて20年目になるが,長年禁煙治療に取り組んでいると,ニコチンガムしか治療薬がなかった時代に自由診療で禁煙治療をしていたが思い出して再挑戦に来院したり,4〜5回禁煙治療に取り組んでやっと長期的禁煙に成功したりする患者も現れてきている。やはり,患者も医療者側も絶対に諦めないで禁煙に取り組み続けることが大切であることを改めて強調しておきたい。
・ 禁煙治療スキルアップのためには下記のサイトが役立つ。経験すれば,より自信を持って禁煙治療を担当することが可能になるであろう。J-STOPはe-learningなので,在宅で自分のペースでの受講が可能である。


・日本禁煙学会 認定専門指導者・認定指導者試験[http://nosmoke.xsrv.jp/nintei/]

・J-STOP(Japan Smoking Cessation Training Outreach Project)[http://www.j-stop.jp/]

・日本禁煙学会 禁煙指導者のための禁煙治療セミナー [http://nosmoke.xsrv.jp/seminar/]

積極的にタバコ対策に係わろう

・禁煙治療は,患者に喜ばれ,命を救い,自身のカウンセリングスキルを高め,保健医療,環境問題など社会全体を見渡す見識を深めるのにも役立つ。プライマリケア医には日常診療のみならず,母子保健,学校保健,産業保健活動などの中で,より積極的にタバコ対策に係わっていくことが期待される。

◉文 献

1) 中央社会保険医療協議会:診療報酬改定結果検証に係る特別調査(平成21年度調査)ニコチン依存症管理料算定保険医療機関における禁煙成功率の実態調査 報告書.

2) Hajek P:Relapse prevention. 2005 UK National Smoking Cessation Conference [http://www.uknscc.org/2005_UKNSCC/speakers/peter_hajek.html]

3) ニコレット製品情報 [http://www.nicorette-j.com/product/gum_use.html]

4) 藤原久義, 他:Circ J.2005;69(SupplⅣ):1005-103.

5) Hajek P, et al:Relapse prevention interventions for smoking cessation
[http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/14651858.CD003999.pub4/abstract;jsessionid=692FB35543B1B17C6CD651220B07D927.f03t02]

6) NICE Tobacco:Harm-reduction approaches to smoking/NICE public health guideline 45. 2013.

MEMO 知っておきたい「タバコ問題の真相」

患者が日本のタバコ対策に疑問を感じている場合は,タバコ問題の真相を知ることで,禁煙への動機づけや再喫煙防止につながることも多々経験される。下記の書籍・ホームページは特に有用でわかりやすいので,医療関係者にとって必読であるばかりでなく,患者に紹介するのもよい方法と言えよう。
・‌松沢成文:JT,財務省,たばこ利権─日本最後の巨大利権の闇(PLUS新書).ワニブックス,2013.
・ASH 編:悪魔のマーケティング─タバコ産業が語った真実.日経BP社,2005.
・伊佐山芳郎:現代たばこ戦争(岩波新書).岩波書店,1999.
・村田陽平:受動喫煙の環境学─健康とタバコ社会のゆくえ.世界思想社,2012.
・日本禁煙学会 [http://www.nosmoke55.jp/]

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