先天性トキソプラズマ感染を抑制する目的で,過半数の産科施設で妊娠初期の検査としてトキソプラズマ抗体のスクリーニングが行われている
生肉や飲料水以外の水の摂取,洗浄不十分な野菜や果物の摂取,猫の排泄物との接触,土いじり,砂場遊び,海外旅行(中南米,中欧,アフリカ,中東,東南アジア,豪州)などが感染リスクとなる
トキソプラズマIgG抗体が陰性の妊婦に対しては,妊娠中の初感染を予防するための啓発を行う
妊娠中のトキソプラズマ感染が疑われた例では,妊娠中の治療を考慮する。分娩後は新生児の精査とフォローアップを行い,症候性先天性トキソプラズマ感染であれば治療を行う
TORCH症候群に含まれ,母体から胎盤,胎児へと感染し,胎児・新生児期より水頭症,脳内石灰化,小頭症,網脈絡膜炎,小眼球症,精神神経・運動障害,肝脾腫などを起こす。遅発型として,成人までに痙攣,網脈絡膜炎,精神神経・運動障害などを起こすこともある。サイトメガロウイルスの場合は,抗体を保有している既往/慢性感染妊婦からでも胎児感染を生じることがあるのに対し,トキソプラズマは抗体を保有している既往感染妊婦では,高度の免疫抑制がない限り胎児感染は成立しない。
トキソプラズマはネコ科の動物を終宿主とする細胞内寄生原虫で,中間宿主として哺乳類や鳥類などの恒温動物に感染する。多くは感染動物の筋肉に含まれるシストや,ネコ科動物の糞便中のオーシストに汚染された土壌,食物や水を介してヒトに経口感染する。シストやオーシストは,厚く丈夫な壁の内部に多数の虫体を含んでおり,環境中で長期間生存しうる。
たとえ成人がトキソプラズマに感染しても,80%は症状が出現しないが,20%はリンパ節腫脹や発熱,筋肉痛,疲労感などの感冒様症状が出現し,数週間で回復する。その後は,シストが組織中に形成され慢性感染に移行するが,免疫能が正常であれば再活性化による虫血症は起こらず症状も出現しない。
わが国における妊娠中のトキソプラズマの母体初感染頻度は,0.13~0.25%1)2)とされる。そのうち約30%が胎児感染に至り,15%程度が症候性,85%程度が非症候性の先天性感染児として出生する(図1)3)。ただし,胎児感染のリスクや臨床症状が出現するリスクは,感染時期(妊娠週数)により大きく異なる(表1)4)5)。妊娠初期の胎児感染は,成立しにくいが症候性となるリスクは高く,妊娠末期の胎児感染は,成立しやすいが症候性となるリスクは低くなる。
わが国における先天性トキソプラズマ感染の発生頻度は,分娩1万件当たり1.26人と推計され6),毎年約100~200人程度の感染児が出生すると推定されている。出生児の先天性トキソプラズマ感染の有無を臨床症状だけで診断することは困難で,生後数年が経過してから眼病変が確認されて,先天性トキソプラズマ症と診断されるケースもある。そのため,妊娠中に先天性トキソプラズマ感染のハイリスク例を抽出して治療を行うことは,胎児感染予防のみならず,胎児感染の有無の診断とフォローアップにも有用であると考えられる。
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